自主企画参加作品
令和2年2月2日22時22分に投稿しようの巻
ある夜、絶賛残業中の谷津さんのところに。。。
令和2年、1月末。
谷津さんは遅くまで一人会社に残り、溜まった仕事を必死で片付けていた。
すると。。。
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谷津「えぇ? もう19:25? 何の因果か知らないけど、今日は誕生日だっていうのに、とほほだわ……」
カケヨメ「へぇぇ〜、人って本当に『とほほ』とか口に出して言うもんなんですね〜」
谷「うぁ、また出たっ、この化け猫が!」
カ「失敬な! で? (キョロキョロしながら)今年の誕生日にも白馬の王子様はおらず、と」
谷「悪かったわね。てか、今まで一度もこの日にそばに男がいたことなんてないんだから、そんなの今さら、よ」
カ「その伝票、今日の17時に税理士に渡すヤツじゃなかったんですか?」
谷「延ばしてもらったのよ! 19時に! てか、なんでそんなこと知ってんのよ」
カ「まあまあ、落ち着いて。いま現在19時半だけど、なんでまだやってんですか?」
谷「だ・か・ら、間に合いそうもないから、また電話したの! そしたら、明日の朝までに税理士事務所の郵便ポストに入れておいてくれればいいからってことになって……」
カ「期限が19時から一気に明日の朝まで延びた、ってわけか」
谷「そ、そういうことよ……」
カ「まあ、それなら、そんなに慌てずとも、ね」
谷「というわけなんで、ジャマしないでくれる?」
カ「いえいえ。ジャマしに来たんじゃなくって、耳寄りな情報を……」
谷「また、なんとか言う、小説サイトのこと? 興味ないからって何度も言ってるでしょ。忙しくてそんなヒマないし」
カ「なんとか言う、じゃなくて、いい加減、覚えてほしいなぁ。カ・ク・ヨ・ムですよ、カクヨム!」
谷「かくよむ? かけよめ、じゃなかったっけ?」
カ「それは、私の名前」
谷「っていうか、なんで名前がわざわざ命令形になってんのよ、それだけでムカつくわぁ」
カ「自分でつけたんじゃないんで、ね。恐れ多くも、あの猫界伝説のボス、あいるにゃん様からいただいた名前でして。気に入ってるんですけど、何か?」
谷「どっちみち、私には関係ないわ」
カ「そう言わずに。ほら、昔から、腹が減っては……って言うでしょ。まず、そこのコンビニ弁当でも食べて、ひと休みしたらどうです? つき合ってあげるから」
谷「いや、つき合ってくれなくていいわよ。どうせまた、下らないことしゃべるんでしょ?」
カ「いいから、ほら、弁当出して。何、買ってきたんすか?」
谷「親子丼……。てか、訊かないでくれる? 頭に来るから。。。」
カ「おやおや、そんなことで……何をそんなにご立腹で?」
谷「昨日の夜ごはんは鶏のスープ、明日は職場のみんなでケン○ッキー行くことになってるの! だから、今日だけは鶏を避けたかったのに、こんな時間のコンビニはもう弁当はこれしか残ってなかった……(泣)」
カ「ははは。いいじゃないですか、来年、酉年だし」
谷「は? 来年は丑でしょ?」
カ「ありゃ、これまた、失礼! 干支とかどうでもいいんで。どうせ猫は入ってないし」
谷「てか、なんで年明けたばっかなのに、来年の話してんのよ」
カ「お! よくぞ訊いてくださいました!! 来年じゃあ、ないんですよ。今年の話をしに来ましたよぉ〜」
谷「毎度毎度、頼んでもいないのに、何しに出てくるかと思えば……とにかく『カクヨム』の話ならもう要らないからね」
カ「おぉ、サイト名、覚えていただけましたか!」
谷「わかったよ、じゃあ。聞くだけ聞くから、さっさとしゃべって消えてくれる? 食べたらまた仕事するんだから」
カ「了解でーす」
谷「ったく、なんでこんなのしか出て来ないんだか。私の王子様は、いったいいつになったら。。。」
カ「ホントにねぇ、王子様の一人や二人いるってんなら、私も出る幕ないんですけどねぇ。さびしいあなたの心に寄り添うのが仕事でして……」
谷「いちいち気に障るんですけど」
カ「ちなみに、王子様じゃなくても、どなたか男性の方で気の利く方、いないんですか?」
谷「まったくよ。誰か私を誘いなさいよ! 誕生日なんだから!」
カ「まあ、でも、谷津さんの周りの男はみんな妻帯か、彼女持ちか、極度のお爺ちゃんか……」
谷「そうなのよ、だからなのよ。だいたいさ、誕生日のいい思い出なんて、一つもないのよ。昔から、たいていこの日は残業でしょ。しかも、徹夜だったり。彼氏がいたって、誕生日直前に別れる。あるいは、彼氏が記念日とかイベント嫌いなヤツだったとか、仕事が忙しいとか言って別の日にお茶を濁した食事で埋め合わせするだとか。そんなんばっかだったよ」
カ「もう、一生、それを貫くしかない! まあ、実際、それで特に問題あるってわけでもないし」
谷「なによ、急に、その突き放し方」
カ「そもそも! いいですか、そもそもなぜに今日という大事な日に、あなたは朝からこんな時間までビッチリ伝票を書いてるのか!」
谷「なによ、悪いっての?」
カ「聞くところによると、伝票五カ月分溜めてるって言うじゃあ、あーりませんか!」
谷「だ、だから、昼だって、食べながらちゃんと書いてたのよ。なのに、まだ終わんないって、どーゆーことよ」
カ「それを何と言うか! ジ・ゴ・ウ・ジ・ト・ク」
谷「かーーーっっ! ムカつく。その滝川クリステル的な手の動き、やめてくれる?」
カ「五カ月間、何やってたのかなぁ?」
谷「何だっていいでしょ。アンタに関係ない」
カ「確かにね。ただ私は、情報を伝えに来ただけだから、どうでもいいっちゃぁ、どうでもいい」
谷「なら、早く言って。そして消えて!」
カ「では、発表します!(ほらほら、アレやって)」
谷「アレ?? って何!?」
カ「んもぅ、ほら、こういう時はダダダダダダダダ……って、ドラムスの音がお約束でしょ!」
谷「は? なんで私が……。いいから、もったいぶらないで、さっさと言いなさいよ」
カ「じゃあ、ドラムスなしで、いきなり発表しちゃいますよ。実は『令和2年2月22日の22時22分に予約投稿しませんか?』って自主企画がありまして、なんと!」
谷「なんと??」
カ「読んで字のごとし! 2月22日が締め切りです!」
谷「けっこう、時間あるじゃない」
カ「そうなんです! しかも、なんたって、2月22日はにゃんにゃんにゃん〜♪で、猫の日! それで、あいるにゃん様の飼い主であられるあいるさんと、こげにくさんという二人のカクヨムユーザーさんが企画してくれたんですよ〜。なんとも、泣かせるじゃあ、ないですか。さすが、猫好きのあいるさん!」
谷「はい、もういいでしょ。話は聞いたから、さっさと消えて。いい加減、仕事に戻らせて」
カ「ちょ、ちょっと、なに言ってんですか! 話はここからなんだから。とにかく、今、参加者を絶賛大好評全米が泣いた世界ナンバーワン超人気……あれ、なんだっけ? まあ、いいや。募集中なんですよ!」
谷「絶賛大募集中?」
カ「あ、それだ、それ。谷津さん、ぜひ書いてくださいよ、短編小説!」
谷「は? アンタね、毎回、そのカクヨムだかに、何か書けって言ってくるけど、何なの? それ、美味しいの?」
カ「もちろん! 超絶・美味しい!」
谷「でもいいわ、ダイエット中だし、要らない」
カ「そんなこと言わないで〜。実は、知ってるんですよ……谷津さん、勤務時間中に隠れてコソコソ、なんかやってるでしょっ?」
谷「ちょ! なに! ヘンなこと言わないでよ。私はちゃんと仕事してるわよ」
カ「へぇ〜? そうでした? 何か、パソコンに数字以外のもの……たとえば、文章、のようなもの、とか? 打ち込んでますよね〜?? 知ってんですよ、私」
谷「しぃーーーっ! (ヒソヒソ声で)いつ見たのよ!?」
カ「いや、けっこういつも。こう見えて、姿見せてない時も、そのへんにいたりしますからね、私」
谷「ちょっと、なによ! そんな幽霊みたいなこと、やめてくれる? こわいじゃない」
カ「こわいなんて、失礼な! 私はさびしいあなたの心が映し出してる『猫の精霊』なんですから」
谷「そんなの映し出した覚えないし。てか、さびしくなんかないの! こうやって好きなお話を書いてれば……」
カ「あっっ、ほら!!! 今、確かに『お話』って言いましたね!?」
谷「はっ。言ってない言ってない! 気のせいよ!」
カ「隠さなくったって、いいんです。何も、悪いことしてるわけじゃなし」
谷「いや、そのせいで、伝票が……」
カ「おぉ? とうとう認めましたね」
谷「わかったわよ。認める。確かに、私は小説を書いてました」
カ「ファイナルアンサー?」
谷「はい、経理に二言はありません!」
カ「よっしゃぁ〜! 出しましょう、それを、あいるにゃん様の飼い主のあいるさんの自主企画に!!」
谷「いやよ」
カ「へ?? なんで???」
谷「さっき、短編小説って言ったでしょ?」
カ「えぇ、確かに言いましたよ?」
谷「あのね、私が書いてるのは、超が付くくらいの長編なの!」
カ「あちゃ〜。そうでしたか。。。」
谷「当たり前でしょ。じゃなきゃ、伝票五カ月溜まるワケないじゃない……」
カ「確かに。。。」
谷「というわけで、話は終わり! さっ、消えて消えて」
カ「いや、ちょっと待って。それじゃあ、このカケヨメが派遣されて来た意味がないじゃあ、ありませんか」
谷「知らないわよ。そんなの勝手にそっちで処理して」
カ「しょうがないですねぇ。じゃ、ちょっと失礼して……(スマホを取り出す)」
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カ「あ、もしもし? あいるにゃん様でいらっしゃいますか?」
谷「(んもぅ、精霊ならテレパシーでしゃべるとかしなさいよ。。。スマホなんて、普通過ぎてつまんないじゃない)」
カ「え? 一万文字以内? やっぱりダメですか〜長編は〜。え? えぇっ!? このわたくしが、ですか? はぁ、はい、はい……えぇぇぇぇっっ!? すみません!! いや〜〜、ははぁ、かしこまりまして候でござる。御意。承知。(通話を切る)」
谷「何を時代劇みたいなことやってんのよ、文明の利器のスマホで」
カ「大変なことになりました」
谷「よかったじゃない」
カ「よくないですよ! やっぱり長編では応募できないそうです」
谷「別にいいわよ。私には関係ないんだし」
カ「いえいえ、大ありです。まず、締め切りが2月22日ではなく、2月2日の間違いでした」
谷「はぁあ? 知らんわ、そんなこと」
カ「猫の日は関係なかったということです」
谷「それにしても、確かになんで2月22日にしなかったのかしら。もっと2が増えてよかったのに」
カ「それは、置いといて、ですね、このわたくしがかわりに書けと、あいるにゃん様がおっしゃいまして……」
谷「へぇ〜! それはそれはご愁傷様。人にばっかりカケカケ言ってた報いよっ」
カ「確かに、私は書けませんが、文字を起こすくらいはできます」
谷「文字起こし? 何を起こすのよ」
カ「実は、この会話、最初からずっと録音してましてですね、これをそのまま投稿しろと、あいるにゃん様が……」
谷「ちょっと、やめなさいよ! 私のことが、いろいろバレるじゃないの!」
カ「いえ、ご心配には及びません。仮名にしますんで」
谷「ダメよ、絶対にダメ! 見る人が見たら、わかっちゃうんだから、こういうのは!」
カ「たぶん……大丈夫じゃないでしょうか。そんなに大勢この企画に参加するとも限りませんし、谷津さんのアカウントだって、そんなにそんなに心配するほど、いや、むしろ全然、読まれてないじゃないですか(笑)」
谷「ちょ、今、なんてった!? まさか、アンタ、私の作品読んでるんじゃないでしょうね!」
カ「いけませんか?」
谷「んもぅ、いったい何なのよ……。これまでも……全部知ってたわけ?」
カ「言ったじゃないですか。私はさびしい心に寄り添う存在なんだって。あまり読まれてないアカウントのPVを、せっせと増やしてあげるのも私の仕事なんですよ!」
谷「カケヨメ。。。そうだったのか。。。」
カ「というわけで、時間もないんで、私は帰ってさっそくこの録音を文字起こしして、ですね……どうします? 谷津さんのアカウントで投稿しますか?」
谷「もう、どうでもいいわ。ワケわかんないし、疲れたわ。全部任せるから、勝手にして。私はとにかく、この仕事、明日の朝までしか時間がないの。本当に一刻も猶予ならないから、もう消えて」
カ「谷津さん、最後に一つだけアドバイスしていいですか?」
谷「何よ。要らないって言ったって、どうせ言うんでしょ」
カ「コメント書くの、もうちょっと短くしたらどうです? そしたら、伝票書く時間、もっと増えると思いますけどね」
谷「うるさいなぁ。てか、そっち? 彼氏ができるアドバイスかと思ったのに」
カ「いや、谷津さんは彼氏がいなくてよかったんですよ」
谷「なんでよ、失礼な! アンタ、失礼なことしか言わないわね」
カ「だって、今だって仕事に、執筆にと、休む間もなくやってもこんなに時間がないのに、このうえ、彼氏とつき合う時間なんて、あります?」
谷「た、確かに、言われてみれば。。。いや、彼氏ができたら、執筆なんてしないわ。リア充は、小説なんか書かないのよ!」
カ「それはどうでしょう? カクヨムには『夫を好き過ぎる妻の会』なんてのもありましてね、夫婦のノロケ話を書いてるヒマな人たちもいるんですよ? ま、どっちかですね。一人でさびしく執筆に邁進するか、おノロケをネタに執筆するか。なんなら、時間なんて、寝なきゃいくらでも作れますし」
谷「わかったわかった。本当にもういいから。こんなことしてたら、朝になっちゃうわ。早く消えて。(ったく、どうせ出て来るなら、寝てる間に勝手に伝票書いといてくれる小人でも出て来てくれればいいのにさ……ブツブツ……)」
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というわけで、谷津さんはこのあと伝票を徹夜で書き上げ、一方のカケヨメは谷津さんを自主企画に参加させることはできなかったものの、かわりに彼女との会話を文字に起こして2月22日、いや、2月2日の22時22分に予約投稿することとなった。
あとは、それが無事に、22日じゃなくて、2日に間違いなく公開されるかどうかを、待つばかりである。めでたしめでたし。
ちなみに、谷津さんが2月1日早朝に書き終わった五カ月分の伝票の束は、出力して積み上げてみると3センチの高さになったらしい。。。
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