俺×指輪×姫

緒夢來素

第1話

「先輩!お先です!」パソコンの電源を消し、デスクから立った後輩が残業に追われる俺を横目に出口に向かった。


「おつかれ~気おつけて帰れよ~」

俺は仕事が人より遅く、残業が当たり前になっている。今まで、定時で帰れた記憶が無い。上司からはパソコン業務以外は成績が一応トップをさせてもらっているが故、なんとか切られずに済んでいる。


彼女居ない歴イコール年齢の俺は多少残業があっても、待っててくれる人がいない為帰る時間は自由である。


明日は俺の三十五の誕生日である。今日のノルマを終わらせ、俺も帰る支度を始めた。


時刻は十一時四十五分。自宅までの距離は会社から近くのマンションに住んでいるため、自転車で十五分くらいである。「帰ったら十二時か、帰ったらベッドにダイブだなぁ~」晩御飯を食べずに寝る事は俺にとっては、日常茶飯事である。


街頭が等間隔に並び、俺を家まで誘導しているようだった。いつも見ている景色が今日は何故か別の道を通っているような感覚に陥った。


「あれ?目の前がクラクラするぞ?過労か?」俺は、自転車から崩れ落ちるように倒れた。犬の散歩をしていた近所の叔母さんの声、犬の鳴き声、近くの家から何人かが俺を見てなにやら叫び声が微かに聞こえた。


次第に意識が遠のき、目を開く事も指を動かすことも出来ないまま、俺は重くなる体が沈んでいくのを感じ底に落ちた。


「ここは何処だ?」もう一度体を動かそうと試みた。「動くぞ!!目は... ...開くぞ!!眩しっ!!」目に入る光が強く、そこに広がる光景は大草原と言っていいくらい、何も無く温かかった。


すると、奥からなにやら人影のようなものが俺に向かって走ってきた。


「危ないよ!モンスターが来てるから逃げて!!」


「え?モンスター?え...えー!!!!」


全力で走る姿は、可憐で美しかった。

「あー、にしてもカッコイイなぁ~名前はなんて言う...」


「あうっ!」


俺を横切る彼女の姿煮見惚れ、俺の記憶は、そこで途絶えた。


「君、私忠告したよね?にしても見ない顔ね?怪我はある程度治したけど、完治まではもう少し時間がかかると思うから安静にね?」


気がつくとベッドの上に横になっていた。辺りを見るからに屋敷のように、広く彼女は此処のお嬢様と考えて妥当だと思った。

シャンデリア、柔らかいベッド、何処からかラベンダーのような香りが漂っていた。


「この香り、落ち着きます。助けて下さったようで、ありがとう。」


彼女は少し不貞腐れ気味で腕組みをしたまま、俺に質問を始めた。


「たくっ、私が外に出た事がバレたのはアナタのせいなんですからね!ところで君は、名前は?何処からか来たの?あんな所で一人って自殺志願者かしら!」


「あー、なるほど。どうりで見る景色全て、見たことの無いものばかりで、それもモンスターと来た。此処は今までいた世界とは別の... ...いわゆる異世界と言うべきものだ。」


彼女が更に近ずき、俺を覆うように上に跨った。「君、さっきから何を言っているのか分からないですわ!名前よ名前!私は"アリス"私の話を聞いてなかったって訳じゃないでしょうね!」どうやら少しお怒りのようだ。


俺は、大方自分に置かれた状況を把握し我に返った。


「あっ、ごめん名前だったよね!」


俺の以前までの名前は"奥野 忠彦"どうもこの世界に置いて不似合いだと考えた俺は、とっさに以前好きだったアニメの主人公の名前を借りることにした。


「俺の名前は、アレンよろしく」


彼女はベッドから降りて、一言告げて部屋から出ていった。


「これからは、気おつける事ね!」


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