第91話 ハルカに弁当を作ってあげよう

 

 秋・・・


 秋と言えば色々思い浮かぶだろう・・・


 その中でも・・・


 やっぱり代表的なのは・・・


 スポ


「やっぱり秋って言えば食欲の秋よね!」

 金曜日、帰りのホームルームの後。

 教室内にハルカの声が響き渡った。クラスメイト全員に聞こえるようにだ。

「というわけでみんな!来週の月曜日、一人一個あたしの為に手作り弁当を用意してもらえるかしら。評価してあげる。」

 おいおい、何様だ?何かとてもハルカらしくない言い回しだが・・・

 ともあれクラスメイト達はカンカンだ。

「何よ!あんたに弁当作ってやる義理なんてないでしょ!」

「そーだそーだ!何上から目線で言ってんのよ!」

「あんたがこんな娘だとは思わなかったわ!もうあたしに関わらないで!」

 当然ながら散々言われるハルカ。あのマユリですら嫌な顔をしている。しかし、ハルカは余裕の表情だ。

「まあまあ。落ち着いて聞きなさい。何もタダでお弁当作ってきてって言ってるわけじゃないの。作ってきてくれたらこれをあげるわ。」

 そう言うと、ハルカはカバンの中から一枚の写真を取り出した。そこに写っていたのは・・・

『!!それは!!』

 クラス中が震撼する。特にマユリは開いた口が塞がらなかった。

「そう、マユリの写真よ。作ってきてくれた人達には一律でこの写真をあげる。そして更に!あたしの舌を唸らせたトップオブトップのお弁当を作ってこれたなら、拡散厳禁、禁断のマユリ写真を進呈しましょう。」

「何言ってんの!?」

 あまりにも人の気持ちを考えないハルカの言動に、さすがのマユリも声をあげた。だが、ハルカは掌をマユリに向けその行動を制する。


 ?


 何かあるの?


 マユリは察し、言葉を詰むんだ。静まり返る教室。


 そして・・・


「わかった!作るよ!」

「つ、作ってくればその写真はもらえるんでしょ?ならやらない手はないわね。」

「わかったわよ!作ってくればいいんでしょ!作ってくれば!」

 次々に参加者の声が上がってくる。そんな中。

「あ~、あたしはパス。別に料理得意って訳じゃないし。それに、かわいこちゃんは実物を見るのに限るからね。」

 マユリに向けウインクすると、ヒビキは早々と戦線を離脱する。わかってましたとばかりにハルカはそんなヒビキの側に行き、コソコソと耳打ちする。ヒビキは少し目を大きくするが、冷静な態度は崩さず軽く頷いた。

 その後も参加者は膨らみ、気付けばハルカ、マユリ、ヒビキ以外のクラスメイト達が月曜日に弁当を作って持ってきてくれることになった。

 しかし・・・おかしくないか?

 これではクラスのほとんどの女子達が、マユリのことを好きだということになるのでは・・・


 ・・・まあ事実そうなのだろう。


 ハルカの狙いはここにあったのだ。

 2学期になってからクラスメイト達のマユリを見つめる目線に違和感を覚えたハルカ。

 何か皆でマユリを見ながらニヤニヤしたり、頬を染めたり、ポ~ッとしたり。

 明らかに、ミカ達の様な恋する乙女の顔になっているのだ。

 おそらく夏休み中、マユリが格段に魅力をあげてしまったことが原因だろう。これもイケメン美少女の宿命なのだろうか・・・


 今回、とりたくもない強行手段を使ってハルカはそんな彼女達を炙り出すことに成功した。

 いやまあ、とはいってもほぼ全員だったのだが・・・

 後は誰がどの程度マユリを思っているのか。これは出来るだけ今の内に知っておきたい。深すぎる愛は、時には歪み、ストーカーになり得てしまうからだ。

 なので・・・

「審査員はあたしだけじゃなくて、マユリにもやってもらいます。これはね。家でちゃんと料理の手伝いをしているか、学校で調理実習をしっかりやってきたか、その実力を試すチャンスよ!各々!週末料理に励みなさい!」

『はっ!!』

 命令口調で言われているのにも関わらず、今度は誰一人文句も言わずに軍人さんみたいなキチッとした返事をするクラスメイト達。そして、隊列を組んで帰っていく。

 教室に残されたのは、ハルカ、マユリ、ヒビキの3人だけになった。


 ここでようやくハルカはマユリにもキチンと説明をする。

 口元に手を当て驚くマユリ。どうしたらいいのかわからない複雑な表情を作った。まさか、自分がみんなを誘惑してるように思われていたなんて・・・

 ・・・いや、まあ逆なのだが・・・

 マユリの魅力に対するネガティブ思考は、どうやら以前と変わらないようだ。

 ヒビキは先程耳打ちで聞いているのでわかっている。問題はこの後の展開だ。


 放課後の教室の中。ハルカは暗くなるまで月曜日の作戦をしっかり二人に伝え、改めて協力を仰ぐのであった。

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