第81話 別荘でお泊まり会
茹だるような暑さがよく似合う、晴天の土曜日。
サクラの運転するマイクロバスは、美女美少女達を乗せ走っている。運転手は責任重大だ。少しの運転ミスも許されない。事故を起こして彼女達を傷つけるわけにはいかないからだ。もし彼女達に何かあったら、国が滅ぶかもしれない・・・
でも、その緊張感の中であったとしても、嬉しくてしかたがないサクラ。車内に蔓延する女子達の楽しげな声。皆、今日という日を楽しみにしていたのだ。
「細い棒状のお菓子食べる人~。」
『はーい!!』
ハルカの一言に、サクラ、サラ以外の女子達が手を挙げる。まだ目的地にも着いていないのに、気分はもうすっかり上がりきっていた。
「朝早かったから少し眠くなってきちゃったな。マユリ先輩、肩貸してもらってもいいですか?」
しれっとマユリに接近しようとするミカ。もちろん四性天達がそれを許すはずがない。
「ミカさん!マユリ様に迷惑掛けないで頂けます?」
「そうだよ!ミカミカ床で寝ればいいじゃん!」
「ミカ、オレの肩貸してやるから諦めろ!」
散々言われるミカ。特にほむらは酷いな。
そんないつもの調子を見ていて、ハルカはほっこりした。予想通り楽しくなりそうだ。
それから一時間。
マイクロバスは目的地の別荘に辿り着いた。広々とした敷地に立つウッド調の木造2階建ての別荘。アスレチック施設なんかも常設されている。
「うわぁ・・・凄いね。」
思わず声が漏れるマユリ。この別荘の敷地だけでマユリの家の敷地位ある。維持費は大変だろうが、実に羨ましい限りだ。
「マユリ先輩。あたしと結婚したらいつでもここに来れますよ🖤」
他の面子には聞こえないように、マユリに耳打ちするミカ。いや、結婚って・・・この国の法律忘れてません?案の定、苦笑いのマユリ。ちなみに今のマユリの格好はいつものボーイッシュスタイル。二日目にこの前買った服を着るつもりなのだ。他の女子、特にミカと四性天達はとてもかわいい格好をしている。マユリにアピールするためだろう。
「ミカミカ。早く中に入ろうよ。」
ほむらは辛抱たまらない様子だ。おそらくトイレを我慢しているのだろう。
「そうだね。サクラさんお願いします。」
「かしこまりました。」
サクラは鍵を開け、扉を開く。
「どうぞお入り・・・おっと!」
「トイレトイレー!」
サクラを押し退け、真っ先にトイレを目指そうとするほむら。
・・・やはりそうだったか。
しかし中に入ったはいいが、トイレの場所がわからない。
「サ、サクラさん。ト、トイレどこですか?」
「突き当たりの扉を出て左です。」
「ありがとうございますぅー!」
余程我慢していたのだろう。道中トイレ休憩は何度もとったのだが、ほむらは行かなかったのだ。我慢のしすぎは身体に悪いから、ちゃんと休憩時間に行くようにしようね。
さて、ほむらのことは置いておいて、別荘の中に入ったマユリ達。キチンと手入れされた内装はホコリ一つ付いていない。建家の外観に合わせたように、室内の家具もウッド調で揃えられている。サクラは次々に窓を開け、外の空気を中に取り込んだ。
「昼食を食べて少し休憩したら、みんなで買い物に出掛けましょう。」
ミカはこの後の予定を話す。確かここに来る途中、買い物ができる商店街があった。おそらくそこに行くのだろう。
「昼食は後20分程で届きます。それまで皆様おくつろぎください。」
サクラはそう言うと、身辺の見回りに行こうとする。
「サクラさん。ずっと車の運転で疲れてるんですから、サクラさんも休んでください。ボクが散歩がてら、その辺見て回ってきますから。」
サクラにばかり負担はかけられない。何故なら今日は、ここにいるみんなが主役だからだ。
「ですが・・・マユリ様にそんなことさせるわけには・・・」
「大丈夫です。あたしも一緒に行きますから。さぁ行こ、マユリ。」
ハルカもマユリについていくようだ。ずっと座っていたため、体を動かしたかったのだろう。他の子達がついてくる前に、二人はサッサと外に出た。
「さて、あたしらここの土地勘ないから、とりあえずこの建物の回りぐるっと回ろっか。」
確かにその通りだ。だが、マユリがいれば迷子になることはない。何故ならミカ達の気配を辿って戻ることが出来るからだ。
「いや~。それにしてもこの建家でかいわね。普通に歩いても一周するのに10分位はかかるわよ。」
少し歩いただけで愚痴を言い出したハルカ。
「まあいいじゃない。おいしい空気を吸いながら歩こうよ。」
マユリはハルカの手を引いて歩き続けた。
心地いい風が吹いている。真夏の猛暑の中にいるとはとても思えない、まるで春の陽気。ハルカも歩いているうちに、自然と笑顔になってきた。
「なんかいいね。こういうの。」
「うん、そうだね。ボクもそう思う。」
手を繋いだまま二人は歩き続け、気付けばあっという間に一周していた。玄関にはミカと三人の四性天が待っている。
「・・・お帰りなさい。ハルカ先輩・・・何ですか?その手は。いけない手ですね。」
殺気だっているミカ。他三人もジロリとハルカを睨んでいた。
「え?マユリがあたしを引っ張ってくれてたんだけど・・・あんた達!何勘違いしてんの?」
どうもハルカが抜け駆けしたものだと、四人は思っているようだ。勘違い甚だしいのだが、手を繋いで歩いていたのは事実。四人が悔しがるのも無理はない。
「ん?何?別にハルカと手を繋いで歩くのなんて昔はしょっちゅうしてたよね。何か問題でもあった?」
中学時代、マユリはハルカがだるそうに歩いていると、手を引っ張って歩くことが多かったのだ。今回もそんな感じで手を繋いだだけなのだが・・・しかしこの一言が四人の恋心という炎に、更に薪をくべることになってしまったのだった。
やっぱり一番のライバルはハルカ先輩だ!
もちろん尊敬する先輩だが、それとこれとは話が別。もっと頑張らないと、今のままではとてもハルカに追い付けない。その為にも、このお泊まり会で成果をあげなければ!
「やめてよ。そんな目で見ないで!」
血の涙を流しながら、悔しがる四人が怖くてたまらないハルカ。
この後、ハルカは昼食を食べながら何とか誤解をといた。必死の説明に、みんな納得してくれたようだ。それはそうだろう。もしハルカが本気でマユリを狙っているのであれば、今まで色々協力してくれたり、フォローしてくれたりはしなかったはずだからだ。
ただ・・・それでもやっぱり羨ましい。
ハルカのように、マユリから絶大の信頼を得られる女になりたいと、四人は心から思うのだった。
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