第76話 よし!勉強だ!
8月8日。朝8時。
マユリは既に勉強を始めていた。
元々夏休みは、勉強中心で予定を組んでいる。なので家族に朝食を準備し、身体が鈍らないように散歩した後、直ぐに勉強に取りかかったのだ。
「よし、次はポルトガル語の勉強だ。」
マユリがしているのは何も学校の勉強だけではない。世界各国の言語、文化なんかも勉強している。それもこれも、『夢』を叶えるためだ。
マユリの夢とは一体・・・
カリカリカリカリ・・・
カリカリカリカリ・・・
・・・ゴシゴシ・・・
・・・・・・
「フゥ・・・よし、次は自然科学だ。」
勉強の幅が広い。従って、いくらでも勉強する時間は足りないのだ。本来は遊んでる暇などない。だが、勉強だけではダメなのだ。知識だけではなく、人生の幅も広げないと。
テローン
ん?メールが届いた。誰からだろう。
『こんにちは!明日の山登り楽しみです!待ちきれなくて、ついついメールしちゃいました。』
ミカからだ。そう、明日はマユリ、ハルカ、ミカで山登りに行くのだ。この前の海といい、こうしてミカが誘ってくれる為、適度な運動ができる。とてもありがたいことだ。
マユリは返事を返す。
『こんにちは。うん、楽しみだね。誘ってくれてありがとう。』
送信っと・・・
テローン
はやっ!
ミカからメールが秒も待たずにきた。
『ありがとうだなんて・・・もったいないお言葉です!こちらこそありがとうございます!では、あたしこれから明日の準備に取り掛かりますね。楽しみにしててください!』
文面から、余程楽しみにしているのが伝わってくる。今までミカが企画してきたお出掛けは、全部ミカが準備をしてくれていた。移動手段や場所、タイムスケジュールまでもだ。そこまでしてもらうのは申し訳ないと思いつつ頼ってしまっているのは、それだけミカを信頼しているからだろう。そしてそれをミカはとても誇りに思っている。つまりはウィンウィンな関係と言うわけだ。
気が付けばもう11時半。
マユリは昼食の準備に取り掛かる。今家にいるのはマユリとイサムとナノハ。なので三人分用意すればいい。
手早くカルボナーラとオニオンレタスサラダを作り、二人に食べさせる。マユリはというと、お腹一杯になってしまっては眠くなるので、スムージーのみで我慢した。
早々に部屋に戻るマユリ。午後の勉強開始だ。
「さて、次は臨床栄養学やろう。」
・・・本当に幅が広いことで・・・
しばらくの間、黙々と勉強をするマユリ。一時間程経った頃・・・
テローン
メールが届いた。誰からだろう?
『ヤッホー。明日のことなんだけどね。お弁当作ってくれるって話は聞いてるんだけど、この前のお弁当で入ってなかったピーマンの肉詰めとエリンギと玉ねぎを炒めたアレ入れてもらえると嬉しいな。あと、出来ればマユリ特製のスムージーも飲みたい🖤』
ハルカからの要望要求が詰められたメールだ。しかしマユリは嫌な顔一つしない。むしろ親友に『これがまた食べたい』と言ってもらえることが嬉しかった。
勉強机の一番上の引き出しから一冊のノートを取り出すマユリ。その中には、様々な料理のレシピがマユリの字でギッシリ書かれていた。今までにマユリが作ってきた料理の数々がそこには載せられているのだ。
マユリは一度作った料理を忘れないようにと、その都度ノートに作り方を執っていた。つまり、これはマユリ料理のレシピ本。ミカや四性天達、そしてマユリファンならいくらお金を積んでも手に入れたい代物だろう。因みにノートは五冊ある。
「う~ん。どれ作ろうかな。」
勉強を一時中断し、明日の弁当のおかずを考えるマユリ。定番のものは数種類入れるつもりだが、ここは敢えてみんながあまり知らないようなおかずを入れてみるのも面白いかもしれない。兎にも角にも夕方買い物に行かなくては。
ページをめくりながらマユリは思案する。そしてそのまま一時間が経過した。
「あらら。もう3時過ぎちゃった。いけないいけない。勉強やろう。」
マユリはノートを引き出しにしまうと、再び参考書と向き合う。
程なくして・・・
ピンポーン
インターホンの呼び鈴が家の中に鳴り響いた。誰だろう?
マユリの隣の部屋の扉が開く音が聞こえた。どうやらイサムが対応してくれるみたいだ。
イサムは階段を降り、玄関を開ける。そして直ぐ様、姉を呼ぶ。
「姉ちゃ~ん!何か凄いことになってるぞ!早く来てくれ!」
ただ事ではない様子のイサムの声。マユリは慌てて玄関に駆け降りた。
「どうしたの、イサム!って、何これ!」
玄関先には、海の幸山の幸様々な食材が積み上げられていた。中には中々手に入らない高級食材まである。
「一体どういう・・・」
「驚かせてしまってすみません。」
食材の影からミカのボディーガード、サクラが姿を現した。
「ミカお嬢様からマユリ様へのお届け物でございます。これらの食材を、明日のお弁当のおかずの足しにして頂きたいとのことですが・・・ご迷惑・・・でしたか?」
マユリの驚きっぷりを見たサクラは申し訳ない気持ちになってしまった。いくら主人の言いつけとはいえ、マユリを困らせるのはやはり胸が痛むのだ。
だが、マユリの次の反応はサクラにとって意外なものだった。
「いいんですか?これでお弁当作っちゃって。」
キラキラとした眼で食材を見るマユリ。沸き上がる感動。何やら創作意欲が掻き立てられているらしい。
「え、ええ。残るようでしたら・・・いや、残るでしょうから、余った食材はご家族でお召し上がりください。」
それを聞いたイサムの目が輝く。これだけの高級食材を使ったマユリの料理が食べられるのだ。嬉しくないわけがない。
「悪いですよ。必要な分だけ頂ければいいんで。」
こんなに高級な食材を全部貰うのはさすがに気が引けたマユリ。イサムはこの世の終わりかというぐらいに落ち込む。
「いえ、受け取って下さい。マユリ様の貴重なお時間を割いて作っていただくのですから。寧ろこれだけでは足りないくらいです。本来ならお給料を支払わなければいけないのですから。」
サクラは本当に申し訳なさそうに言う。
「流石にお給料までは頂けません。・・・わかりました。ではこの食材は有り難く受け取らせて頂きます。」
再びイサムは顔を輝かせる。
・・・感情の起伏が激しいね。
「ありがとうございます。では差し出がましいようですが、中にお運びいたします。」
サクラは食材を持ち上げようと腰を落とす。しかし、マユリはサクラのその行動を慌てて止めた。
「あっ、大丈夫ですよ。男手ならいますから。ね、イサム🖤」
「任せろ姉ちゃん!」
イサムはテキパキと食材を家の中に運び入れる。もう、嬉しくて仕方ないのだ。早くこの状況をナノハにも伝えてやりたい。
「サクラさん、ありがとうございました。お弁当、みんなで食べられるように多目に作りますんで、また一緒に食べましょう。」
マユリはサクラにも丹精込めて作ったお弁当を食べてもらいたいのだ。友達と言うには大分年上だが、それでもマユリにとってサクラは、気の許せる相手であった。
「・・・お心遣いありがとうございます。楽しみにしてますね。それでは失礼致します。」
サクラは慎んでこの申し出を受けることにし、その場を後にする。マユリとしては、勉強と散歩をする時間は減ったが、買い物にいく手間が省けたので助かった。
明日の山登り。山頂で食べるマユリ弁当はきっと、格別なものになるだろう。
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