第69話 サキの後輩

「はぁ・・・暇だわぁ・・・」


 夏休み三日目。


 マユリの学校の保険医サキ。彼女は今、駅近の某有名コーヒー店のテラス席で人を待っていた。

 時刻はもうそろそろ正午。待ち合わせ30分前からここにいるのだが・・・

「ねえねえお姉さん、暇してるみたいだね。俺と遊ぼうよ。」

 本日3人目のナンパ野郎登場である。まあサキ程の美人が頬杖をつき、歩道を見ながらため息をついていれば、これはチャンスだと男は思うのかもしれない。

「・・・・・・」

 無視を決め込むサキ。前のナンパ野郎二人はこれで諦めたのだが・・・

「おーい。無視すんなよ。折角誘ってやってんだからよ。ほら、俺と楽しいところ行こうぜ。」

 しつこい!しかも何故か上から目線。

 うざい!

 キモい!

 しかしそこは流石クールビューティー・サキ。感情的になることも、怖じ気づくこともなかった。

「お断りだわ。あなたと一緒にいるのなら、その辺の害虫と一緒にいた方がマシよ。」

 全然男に興味無さそうに、酷いことをズバッと言い放った。もちろん男はカンカンだ。

「ふざけんなよ!この!こっちこい!」

 感情的になった男は、サキの腕を掴み強引にどこかへ連れていこうとする。店内の注目を一斉に集めた。

 その時・・・

「お待たせしました先輩。あれ?誰ですか?この男の人は。」

 サキの待ち人がやって来た。サキ同様眼鏡をかけた、知的そうな女性だ。

「どけ!今からこの女を教育してやんだよ!」

 男はお構いなしにサキの腕を引っ張る。

「痛い・・・」

 サキは思わず声を漏らした。それを聞いた後輩の目付きが変わる。

「あんた、その手を離しな。さもないと。」

 後輩は眼鏡を外す。

「さもないとなんだってんだ?ああ!?」

 ドスの利いた声で凄む男。

 後輩は男の目を見据え、殺気を送る。


 ドクンッ


 小刻みに震える男。そして目、鼻、口からだらしなく体液を垂らし始めた。それでも容赦なく、後輩は男に殺気を注入していく。

「フユリ、もうやめてあげなさい。・・・もうこの人壊れてるから。」

 そう、男は廃人になっていた。身体中から液体を流し、立ったまま失神している。

「いえ、まだです。」

 後輩は男の耳元で囁く。

「あなたはこれから女性達の奴隷です。女性に逆らうことは許されません。もし逆らえば・・・あなたの運動機能は完全に破壊されます。」

 そう言った後、後輩は男から離れ指を鳴らした。


 ハッ


 男は正気を取り戻す。そして今の自分のだらしない姿を恥ずかしく思い、床にへたり込んでしまう。

「早くここから消えなさい。」

「わ、わかりました。ご主人様。」

 主従関係が成立した。男はこの先、女性を見るたびに敬意と敬服をすることを余儀無くされたのだ。

 男がいなくなったとはいえ、ここには居づらい。サキと後輩は場所を変えることにした。


 フランチャイズのとあるレストラン。


「久しぶりね。三年ぶりかしら。」

「もう!1ヶ月振りですよ。あたしのこと過去の女みたいに言わないで下さい。」

 サキの再会の挨拶に、むくれるフユリ。頬を膨らませる顔が、とても愛らしい。だが、話の続きをする前にどうしてもサキには言うことがあった。

「さっきのことなんどけどフユリ。助けてくれたのはありがたいんだけど、あれはやり過ぎよ。」

 サキは後輩に注意する。

「だってぇ。サキ先輩の綺麗な腕にあの男の手痕がつくの嫌だったんですよ。・・・すみませんでした。」

 サキを思う気持ちが強すぎるため犯してしまった行動。でも、確かにやり過ぎだったのは事実。フユリは素直に謝る。

「・・・でも・・・私のこと守ってくれたのよね。ごめんなさい。あなたが謝ることではなかったわ。それに、あなたのそういうところ、私好きよ。」

 サキは考えを改めた。そうだ。悪いのはあの男であってフユリではない。彼女にああさせたのはあいつのせいだ。

 フユリはサキの言葉で再び笑顔に戻ることができた。そして

「じゃあ結婚してくれます?」

 と、かわいい上目使いでサキに迫る。サキの二つ年下のフユリ。腰まである長い髪を左右で結い、透明感のある清楚な格好をしている。彼女は同姓が好きだった。サキとは高校時代に知り合い、それからずっとアプローチしてきたのである。

「まだそんなこと言ってるの?いい加減諦めて普通に恋人作ればいいじゃない。フユリ美人なんだし。」

 呆れた感じで言うサキ。

「わかってませんね。あたしはサキ先輩がいいんですぅ。高校生の時、あたしにあんなことしておいて・・・責任とってください!」

「ああ、またその話か・・・」

 七年前。

 好意を持ち言い寄ってきていたフユリ。その頃のサキとしては、当時から可愛かった彼女に好かれることはまんざら嫌ではなかった。そしてある日、そんないつもアプローチしてくるフユリにサキは声をかけ、一度だけ一夜を共にしてしまったことがあった。別に、サキとしては同姓を恋愛対象として見ていたわけではない。ただあの時は作家を目指すものとして、興味本意で若いフユリの身体を・・・

「あの時から、あたしの心と身体は先輩だけのものになりました。早くもらってください。」

 ジリジリ顔を近づけてくるフユリ。会う度にこの話になる。お決まりの展開なのだ。

「そ、それよりも何か話があるんじゃなかったの?」

 サキは話題を変えた。いや、元々フユリが話したいことがあるといって今日会うことになったのだ。でもまあ1ヶ月前もそういうことで会い、大した話ではなかったのだが。

「あっ、そうでしたね。うちの妹のことでちょっと・・・」

 フユリは元の位置に戻ると、改まって話始めた。因みにサキはフユリの家族には会ったことがない。妹がいるということは聞いていたが・・・

「とてもかわいい妹なんですが、どうも最近様子がおかしくって。」

「おかしいって、どんな風に?」

 何だか深刻そうな悩みだ。ちゃんと真剣に対応しようと思うサキ。

「妹には親友がいるんですけど、その親友がどうやら同姓にモテモテみたいで・・・」

 今回はとても興味深い内容の相談だ。サキは前のめりで話を聞く。

「それでそれで?」

「何なら学校の先生まで、その子を狙ってるみたいなんですよ。」

 怪しからん!

 サキは腕を組み、呆れた顔をする。

「で、妹は親友を守るためにおかしな訓練をし出しまして・・・聞いたら何でも『威嚇』を強化するための訓練だとか。」

 妹も威嚇が使えるのか・・・

 サキは戦慄する。あんなのを使える人間が他にもいるとは・・・

「それって訓練するものなの?あなた、しれっと使ってるじゃない。」

「ええ。あたしの場合は使ってるうちに強くなってしまったようです。それは妹もそうなのですが・・・でも妹はその訓練のお陰で今やあたしと同等くらいの力を身に付けてしまいました。」

 フユリと同等?つまり、威嚇だけで人の精神を壊せる力を手にしているということだ。

「妹の将来が心配なんです。4姉妹の一番下ハルカの将来が。」


 ・・・


 ん?


「ねえフユリ。その妹さんは今いくつ?」

「17歳の高校2年生です。女子高に通ってます。」

 

 えっ、まさか・・・


 じゃあその親友って・・・マユリさん?


 で、マユリさんを狙ってる先生って・・・私?


「?先輩?どうかしました?」


 サキは天を仰ぐ。ハルカに気づかれていたのだ。まあ、あれだけアプローチしていれば気づかない方がおかしいのだが。


 と、とりあえず・・・


 相談されたのだから何か答えを出してあげないと。

 サキは考えた。そして・・・

 

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