第62話 明後日から夏休み

「あ~あ・・・夏休みかぁ・・・」


 夜9時


 ミカは自室でため息をついた。普通の学生ならば長期連休は嬉しいはず。だが、ミカは心から喜べなかった。何故なら、マユリに会える時間が極端に減るからだ。通常平日ならば学校に行けば会えたのに、休み中はそうはいかない。かといって、毎日家に押し掛けるわけにもいかない。

「この予定表通りにいけばあたし、寂しくないんだけど・・・」

 ミカは一枚の紙を見つめながら言った。自分にとって都合がいいことばかりではない予定表。何ならマユリに喜んでもらいたくて作ったものだった。まあもちろん、ほんの僅かな欲望も見え隠れしているが・・・

「明日渡そうかなぁ。でもなぁ・・・嫌がられたらショックだしなぁ。」

 ミカがそう思うのも無理はない。見ようによっては刺激が強いからだ。

 週に4日はマユリと遊ぶ予定になっているのだが、その4日ともプールか海に行く予定なのだ。基本的に肌の露出が多い。とにかく水着姿のマユリが見たいという、ミカの欲望が反映されているのだ。着てもらいたい水着が沢山ある。際どいのは絶対却下されるだろうから、かわいい系のものを着てもらうおう。

 思わずマユリのかわいい水着姿を想像し、鼻血を垂らしてしまうミカ。想像だけでこれなのに、実際のかわいい水着マユリを見たら・・・

 しかし、これはあくまでも予定の範疇。どちらかと言えば断られる可能性の方が高い。

「どうすればOKもらえるかな・・・あっ、そうだ。ハルカ先輩に相談してみようかな。」

 意外とこういうイベントには乗り気になってくれるハルカ。頼めばマユリを説得してくれるかも知れない。

 早速ハルカにメールを送ってみる。

『こんばんわ。ハルカ先輩にお願いしたいことがあります。夏休み、マユリ先輩を色々な所に誘いたいのですが、御助力賜れませんか?』


 送信っと・・・


 とてつもなく堅苦しいメールの内容だ。もっと崩してもいいと思うのだが・・・

 しかしそれは出来なかった。マユリ同様に、尊敬する先輩だからということもあるが、何より、敬語がちゃんと使えていないと怒られそうで怖かったのだ。このメールを作成するにも10分程掛かってしまった。


 テロ~ン


 すぐに返信がきた。

『こんばんは。予定表があるなら見せてくれる?協力するかどうかは、それから判断するわ。』


 うう・・・


 前回の勉強会とは異なり、今回は遊び中心の予定表。マユリのマネージャー的存在であるハルカが、どう思うのかとても心配だ。

 しかし、そうも言っていられない。ミカは仕方なく予定表を携帯電話のカメラで撮ると、それをメールに添付し、ハルカに送る。


 暫くして・・・


 テロ~ン


 返信がきた。

『いいけど・・・この河原でバーベキューはやめておきなさい。マユリ、まだ気にしてるみたいだから。それも踏まえて予定表作り直してみて。出来たらまた送ってね。』

 どうやらハルカは、ちゃんと予定表を改善すれば協力してくれそうだ。しかし、この文章の中のアドバイスは、しっかり肝に命じなければならない。

 話には聞いている。一昨年の夏休み、マユリの妹が大変な目にあったことを。ミカはその時、マユリと今ほどまで仲良くはなかった。どちらかと言えば、当時の四性天達と同じように遠くからマユリを見つめているだけのような子だったのだ。まあ、最大のライバルであるハルカの前では、これ見よがしにマユリ好きをアピールしていたのだが・・・

 それはさておき、マユリの気持ちを最優先させた予定表を作らなければ。マユリの妹、ナノハに会ったことはないミカだが、将来義理の妹になるのだ。なる予定なのだ。こちらも大切にしなければ。

 ・・・そう考えると、マユリを独占するのは気が引けてきた。


 ・・・よし、週2日に抑えよう。そしてもちろん、河原でバーベキューも無しだ。


 ここをこうして・・・こうして・・・こうしてっと・・・


 出来た!

 

 ミカは早速できたての予定表をハルカに送った。そしてすぐに・・・


 テロ~ン


『ちゃんとわかったみたいね。偉いわよ、ミカちゃん。マユリは家族のこと、凄く大事にしてるからね。今後も誘う気なら、その辺はよく考えて誘った方がいいわよ。よし、この予定表ならあたし応援してあげる。任せといて。』

 ハルカからの心強いメッセージ。ミカは直ぐ様感謝のメールを送った。

『ありがとうございます。明日、改めて予定表をお渡しいたします。楽しい夏休みにしましょう。それでは、おやすみなさい。』


 これでよしっと・・・


 ミカはドキドキしていた。きっと今までにない位、凄く素敵な夏休みが来るだろうからだ。

 思い返せば、悲しい夏休みもあった。それは・・・


 ・・・何で・・・いなくなっちゃったの?


 ・・・お・・・


 いや、よそう。あの時のことを思い出すのは・・・今のミカは、ちゃんと前に進んでいる。好きな人もできた。後にも先にも無いくらい愛しい人ができたのだ。今はとても幸せだ・・・


 テロ~ン


 ん?


 ハルカからメールが届いた。何だろう。おやすみメールかな?

『ミカちゃん。ちょっと見逃してたんだけど、このって何?そんでって?・・・応援するの無しね。』


 ガ~~ン!


 イッケナイ!急いで書いたから欲望の部分が顕著に出ちゃってた!


 ミカは慌てて再改善した予定表を作成し、平謝りのメールをハルカに送ったのであった。

 キチンと言葉を選んで文章を書いたこともあり、何とかハルカは機嫌を直してくれて、再度協力してくれることになったとさ。

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