第56話 プレゼント

 マユリ、ハルカ、ミカは当然彼女のことを知っている。ちなみにヒメノも一度面識があるから知っている。しかし、面識の無いアリスとほむらは首を傾げた。


 誰?


 それを察したハルカは二人にサキを紹介する。

「この人はサキ先生。あたし達の学校の保険医さんなの。とても頼りになる人だよ。」

 簡潔に分かりやすい説明。更にミカは付け加えた。

「ちなみにこの方、実は作家先生でもあるんです。」

 一同、驚きの顔を見せる。マユリやハルカも初耳の情報だった。そして興味を示したマユリはサキに聞いてみる。

「えっ、先生。どんなの書いてるんですか?今度読ませてください。」


 ギクッ


 マユリが興味を持ってくれるのは嬉しいのだが、タイトルを言うわけにはいかない。嫌われてしまうかもしれないからだ。しかし、ミカは特に気にせず、タイトルを言おうとする。

「あれですよ。この前・・・」

「ミカさん!」

 すかさず話を遮るサキ。

「ど、どうしたんですか?サキ先生。そんな怖い顔して・・・あっ!」

 ここでミカはやっとわかった。この話題はマユリに嫌われるやつだ。

「この前・・・何?」

 続きが気になるマユリ。

「この前・・・読ませてもらったんですよ。と、とっても面白かったです。」

 苦し紛れに言うミカ。しかし、これはいけなかった。更に興味を示してしまったマユリ。

「へぇ~、ボクも読みたいな。サキ先生、今度ボクにも・・・」

「ごめんなさい。ちょっと私時間がないの。ミカさんにプレゼント渡したら失礼させてもらうわ。」

 話を反らしつつ今日来た目的を早々に果たそうとするサキ。用事があるのは本当だ。

「はい、これよ。ミカさんの為に書き上げた小説。」

 そういうと手に持っていたB3サイズの封筒をミカに渡した。中には原稿がぎっしりと詰まっている。

「わっほ~い!ありがとうございますぅ!」

 ミカは飛び上がって喜ぶ。この小説には、どんな官能の世界が広がっているのだろう。期待で胸が張り裂けそうだ。

「ミカちゃん、後でボクにも読ませ・・・」

「じゃあ帰るわね。ミカさん、16歳のお誕生日おめでとう。後・・・マユリさん、今日も会えて嬉しかったわ。」

 そそくさと退場していくサキ。喜び覚めやまないミカと、何か仲間外れにされてる気分のマユリ。

 そして、これを皮切りに参加者達はミカにプレゼントを渡し始める。マユリとハルカはメイドさんに預けておいたプレゼントを取りに、一旦会場から出ていった。

「ミカさん、どうぞ。ワタクシからのプレゼントですわ。」

 この場に相応しい、黒のフォーマルなドレスに身を包んだアリスは執事を呼び、手のひら程の大きさの箱を受け取るとそれをミカに手渡した。見るとそれは有名ブランドの箱だった。

「ありがとうアリスちゃん!中身は何だろうなぁ♪」

 ワクワクしながら箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。そのトップには宝石が付いている。

「わぁ、キレイ。これって・・・」

「ムーンストーンですわ。6月の誕生石ですのよ。まあ知っているでしょうけど。」

 アリスらしい、とてもいいプレゼントだ。

 次は・・・

「はい、ミカミカ。お誕生日おめでとう!」

 幼稚園のお遊戯会に相応しい、どこぞの妖精のような格好をしているほむらは、ボディーガードに大きい桐の箱を用意させミカに渡した。

「うわぁ、大きいね。中は何だろうな。」

 ドキドキしながら箱を開けると、そこには古風な女の子の人形が入っていた。

 ギョッとするアリス。


 まさか、それって・・・


「ああ、これが市松人形か。かわいいね。今にも動き出しそう。」

「動くよ。」

 さらっと言うほむらに、驚くミカ。

「えっ、そんな機能がこの人形にあるの?すごいね。」

「夜限定で動くんだ。朝起きたら、たまに隣で寝てることもあるんだって。」

 怖いことをまたしてもさらっと言うほむら。


 つまりそれは・・・呪いの人形なのでは?


 怯えるアリス。しかしミカは至って冷静に喜んでいる。

「ありがとう、ほむらちゃん!大事にするね。」


 チクンッ


 罪悪感の針がほむらの胸を刺す。もしかして、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。心なしか人形の顔が笑っているように見える。

「あっ、オレからはこれね。何でもこれ着けてると、疲労が溜まりにくくなるみたいなんだわ。」

 ちょっと買い物に行くには相応しい、Tシャツにジーンズ姿のヒメノは、おもむろにポケットからブレスレットを取り出しミカに渡した。しっかりとした細いゴムのような材質だが、有名メーカーのロゴが刻まれていた。

 まあせめて包装はして欲しかったところだが、このガサツさがヒメノらしいといえばヒメノらしい。

「ありがとうヒメッち。早速使わせてもらうよ。」

 ミカはもうすでにブレスレットを装着していた。

 その後、クラスメイトや知人達が次々にプレゼントをミカに渡していく。

 ご機嫌のミカ。しかしそんな中、我に返ったほむらは気が気じゃなかった。もしかしたらミカの命が危ないかもしれない。ここは思いきって声をかけてみることにした。

「ミカミカ、それ一回お祓いして・・・」

「お待たせ!」

 言いかけたほむらの言葉を遮り、息を切らして会場に戻ってきたマユリ。

「はい、ミカちゃん。今度こそ受け取ってね。」

 そう言うと、マユリは先程渡し損ねたプレゼントをミカに渡す。

「ありがとうございますぅ🖤いただきますぅ🖤」

 今度はしっかり受け取ったミカ。そして、畏れ多い気持ちで包装を解き、箱を開ける。

 中には・・・

「これって・・・」

 目を丸くし、言葉を失うミカ。それはあまりにも、思いもよらないものだった。

「な、何ですの?」

「ミカミカ、何が入ってたの?」

「おい、早く見せろよ。」

 中身が気になりすぎるアリスとほむらとヒメノ。

 ミカはゆっくりと中の物を掴み、取り出した。それは・・・

「木彫りの・・・人形?」

 そう。中に入っていたのは、猫がサンマを咥え、横を向いている木彫りの人形だった。こと細かく削られたこの彫刻は、まるで生きているような生命力を感じられる。まさに匠の技だ。こんな物をいち女子高生が作れるとは・・・

 辺りは静まり返っていた。もう少し喜んでくれると思っていたマユリは戸惑ってしまう。


 あれ?変なものあげちゃったかな・・・


 そう思っていた矢先、この静寂を壊したのはミカだった。

「すごい・・・すごいです!マユリ先輩!これ、マユリ先輩が作ったんですか?凄すぎます!これ、一生の宝物にします!」

 沸き上がる歓声。いやマユリとしてはこの歓声よりも、ミカが喜んでくれたことが一番嬉しかった。

「気に入ってくれてよかった。ちなみにこれはね、ボクが氣を込めて彫った物だからミカちゃんの危機を数回助けてくれるはずだよ。」

 よくわからないことを、自信ありげに言うマユリ。しかし、言ったことは本当のことだった。

 何やら胸騒ぎかし、ほむらは例の人形に目を向ける。

 すると・・・


 グ・・・グギギッ


 苦しみの声をあげていた。不気味な声に、会場中の視線がその人形に集まる。


 ガガ・・・グギィ・・・


 人の目など気にせず、人形は独りでにジタバタと暴れだし、のたうち回った。騒然とする会場内。そして暫くすると・・・


 グギギギギ!・・・ギャャャャャャ!!!


 人形は断末魔の悲鳴をあげ、ピクリとも動かなくなった。


 ・・・


 ・・・


「ねっ。効果あるでしょ。」

 こうしてマユリのプレゼントは、渡してすぐにミカを救ったのだった。それと同時にほむらの心も救ったのは言うまでもない。

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