第57話 美しマユリ
呪いの人形の件から一時間程過ぎた頃。
ミカの側にはプレゼントの山が積まれていた。
椅子に座り、ご満悦な顔をしているミカ。そして、特に気に入っているマユリから貰ったプレゼントをずっと眺めていた。
もうそろそろ午後の3時になるところだ。
ミカは何かを思い出したように立ち上がり、マユリの元へ行く。
「マユリ先輩。あのぉ、お願いしたい事があるんですが・・・」
「ん?何?・・・あっ。」
思い出したマユリ。そう言えば誕生日にしてもらいたいことがあるとミカは言っていた。
一体何をさせられるんだろ。
とんでもない要求なら断ってもいいよね。
一先ず、聞いてみよう。
「ボクに何かしてもらいたいんだったよね。何すればいいの?」
恐る恐る聞くマユリ。もし、エッチな要求なら申し訳ないけどダッシュで帰ろう。
「聞いてもらえるんですか?ありがとうございますぅ。では、こちらに来てください。」
まだOKしたわけでもないのに、どこかに連れていかれるマユリ。正直不安でしょうがない。
辿り着いた先は・・・衣装部屋だった。
「中に入りましょう。」
ミカの後に続きマユリも中に入る。そこには・・・
「わぁ・・・」
思わず声が漏れてしまうマユリ。
「これをマユリ先輩に着てもらいたいんです。」
ミカはそれを見ながらマユリに言った。
「えっ、いいの?だってこれ・・・」
「いいんですいいんです。着てやってください。メイドさんを一人呼んでおきます。着替えが済んだら案内の者に従って会場にいらしてください。あたしはそこで待ってます。」
ミカはマユリを残し部屋を出ていく。
「これ、どうやって着るのかな。」
とりあえず今着ている服を脱ぎ、メイドさんに手伝ってもらって、マユリはそれを着始めるのだった。
一時間後
会場の中は敢然としてきた。それはそうだ。元々この誕生日会は午後3時までの予定だったからだ。それ以降は特に閉会式もせず、自由解散となる。
ミカとハルカは、帰る参加者一人一人に挨拶をした。そして今現在。会場内にはミカとハルカ、アリス、ほむら、ヒメノ、作業スタッフ、それと夕飯分まで食べて帰るつもりでいる数人のクラスメイト達だけが残っているだけになっていた。
・・・
少しして、ステージの上に動きがあった。
「ミカお嬢様。マユリ様のお支度が整いました。お通ししても宜しいですか?」
サクラがミカに問う。
「うん!お願いします!」
顔を輝かせながらミカは答えた。そしてハルカ達を呼び寄せる。
「みんな!こっち来て!今から女神様が降臨するよ!」
何のことかと、ハルカ達はミカの元へ集まった。嬉々としているミカの顔。余程の事があるのだろう。
ミカは緞帳が下りたままのステージに目を向けている。それにならってハルカ達も同じように同じところに目を向けた。
みんなの目線が集まったところで、ゆっくりと緞帳が上がっていく。
その緞帳の先にいたのは・・・マユリだった。
「うわぁ、キレイ・・・」
自然と声が溢れてしまうミカ。他の面子も、そのあまりの美しさに目を奪われてしまった。
「すごい・・・マユリ、キレイだよ・・・」
ハルカは少し涙目でボソリと呟いた。とても可憐で美しくって、そしてどこか切なくなってしまうマユリの今の格好。
そう・・・マユリは今、ウエディングドレスに身を包んでいるのだ。両手でブーケを持ち、胸元に当てている。
「6月と言えばジューンブライド。ということでマユリ先輩にはウエディングドレスを着てもらいました!」
ミカはみんなに聞こえるように、これを着てもらった理由を説明した。しかし、誰の耳にも届いていない。
「なんて美しさですの・・・」
「お姉さま・・・かわいい・・・」
「とんでもなくキレイです。マユリさん。」
アリス達は、マユリのその圧倒的美しさに度肝を抜かれていた。周りなど何も見えない。ただマユリのその姿だけに、目が釘付けになっていた。
「ど、どうかな。変じゃない?」
マユリは恥ずかしそうに、はにかみながら言った。正直自分では似合っているのか似合っていないのかわからない。なので、みんなの評価を聞きたいのだ。
「べらぼうに似合ってますよ!・・・このままあたしと結婚しちゃいます?」
本気とも冗談ともとれない様子で聞いてくるミカ。ちょっと引くマユリだったが、それ以上に3人の殺気がどぎつかった。
これはマズイ・・・
さすがのミカも口を紡ぎそれ以上マユリに求婚することができなかった。
「・・・ミカちゃん。ありがとう。」
ハルカは少しうつむき、ミカに感謝の言葉を述べた。いつか来るその日の予行練習が出来たからだ。きっとその時もこんな気持ちになるのだろう。いや、それ以上か・・・
「マユリ先輩、写真撮影いいですか?プロのカメラマン呼んでるので、是非撮らせてください。」
懇願するミカ。まあマユリとしては全然構わないのだが。何故ならもうすでに、アリス達に携帯で写真を撮られまくっているからだ。
「いいけど、あんまりポーズとかはとりたくないな。動きにくいし・・・」
「わかりました。その辺は大丈夫です。マユリ先輩は、ただ立っているだけで十分ですので。」
涎を滴ながら言うミカ。事実、ミカとしてはそれだけで十分満足だった。マユリがウエディングドレスを着てくれて、写真まで撮らせてくれる。今日一番の目的が果たせたのだから・・・
写真撮影が始まる。
女性のカメラマンが色々な角度からマユリを狙う。マユリも満更ではない表情を見せていた。やはり女の子。将来着れるかもまだわからないウエディングドレスを着れたものだから、少し浮かれているのだ。
ハルカは暫くその様子を見ていた。マユリはとてもキレイだ。いつまで見ていても飽きない。しかし・・・そうしている内に、どんどん胸が苦しくなってきた。何だろう、この耐えきれない喪失感は・・・
「マユリ~!」
身体が勝手に動き出し、俊敏にステージに上がったハルカは、そのままマユリに抱きついた。
「!?ハルカ?」
突然の突進に身体をぐらつかせるマユリ。
「マユリ~!まだいかないでね!あたし、寂しいよぉ・・・」
ハルカは大粒の涙を流していた。
それはただ寂しいからだけではない。親友に幸せになってもらいたいのに、それを受け入れられない自分が悔しくてしょうがないのだ。
マユリはそんなハルカの気持ちを瞬時に汲み取る。きっと逆の立場なら、自分がそうなるとわかっているからだ。
「ハルカ・・・大丈夫だよ。ボクは夢が叶うまで・・・いや、夢が叶っても、当分は結婚する気ないから・・・」
ハルカの頭を優しく撫で、マユリは子供をあやすように優しく言った。
「ごめん・・・ごめんね・・・マユリには誰よりも幸せになってもらいたいのに・・・ホントにごめんね・・・」
ハルカは自分でも驚いていた。自分がこんなに弱い人間だったなんて・・・
でも・・・それに気づけてよかった。失うことが怖いくらい、マユリが唯一無二の大親友であることを改めて確認できたのだ。
そんな中、ミカ達四人はというと・・・その傍らでもらい泣きをしていた。素晴らしい友情を目の当たりにしたからだ。
そして思い知ってしまった。この二人の絆を。きっと誰にもこの絆を絶ちきることはできないだろう。
・・・まあそれでも、誰もマユリを諦めたわけでは無いようだが・・・
何にせよ今回の誕生日会。ミカにとってもハルカにとっても、一生忘れられない、良い思い出になったようだ。
よかったよかった・・・
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