第19話 痴女じゃないもん!

 快晴の空の下。スカートの股間部分を手で押さえ、恥ずかしそうに登校するマユリは困っていた。


 間違って、着てきちゃった・・・


「ううっ、スースーするぅ・・・」

 朝寝坊したせいだ。

 時間がない中、寝癖直しのついでにシャワーも浴びたのだが、何故か自分で用意したはずの下着がとすり替わっていたのだ。きっと母親がやったことだろう。それでもそこで気付ければよかったのだが、焦りすぎたせいでその時はわからなかった。気付いたのはついさっき、少し冷静になってからだった。下着を着けずに来てしまったと勘違いするほど、スカートの中に違和感を感じたのだ。


 一体ボクをどうしたいんだ・・・


 下着のすり替えがなければこんなことにはならなかった。しかし、今さら帰るわけにはいかない。それでは遅刻してしまうのだ。

「おはよう。マユリ。」

「おはようございます。マユリ先輩。」

 ビクッとするマユリ。ハルカとミカが背後から挨拶してきたのだ。

「おはよう。どうしたの?珍しい組み合わせだね。」

 取り敢えず挨拶を返すマユリだったが、まだ胸はドキドキしている。


 別に、何もなければ見られないんだから大丈夫。落ち着けボク・・・


「そこで偶然会ってね。せっかくだから一緒に登校しようってあたしが誘ったの。・・・ん?」

 話ながら、マユリの様子がおかしいことに気付いたハルカ。左手にもった通学バックでスカートの後方を、右手でスカートの前面を押さえているのだ。その違和感にミカも気付く。

「どうしたんですか?モジモジして。マユリ先輩、もしかしてトイレですか?あたしが手で受けましょうか。」

 真顔でそう言うと、ミカはかがみ、両手のひらを上にし、スタンバイする。


 うわぁー!変態だ!変態変態!!


 マユリとハルカは一瞬でミカから3m程距離を取った。ハッと我に返るミカ。


 ヤバい、本能が身体を動かしちゃった。


「じょ、冗談ですよぉ。やだなぁ。あはははは・・・」

 どうだか・・・

 とても冗談を言っている顔つきではなかった。戦慄が走った二人だったが、一人でポツンと立つミカを哀れに思い、戻ってあげることにした。

 再び三人が揃ったところで、マユリは重い口を開く。

「実はね、着てきちゃったの。この前ミカちゃんが選んだ下着。」

 この二人はマユリがこの下着を買ったことを知っている。何ならミカが張本人と言えるだろう。

 あのデザインを思い出し、ちょっと引くハルカ。ミカに至っては、目をギラギラさせている。


 絶対見たい!


 ふと思いついたミカは、自分のスカートをめくり上げる。

「あたしの見ていいんで、マユリ先輩のも見せてください🖤」

 何言ってんの?何言ってんのこの子。

 マユリは後ずさる。


 逃げた方がいいかな・・・


 マユリの困り顔を見たハルカは、ミカをキッと睨み・・・

「だめ!そんなやらしい目付きの子に、マユリが見させるわけないでしょ!あたしが許しません!」

 ピシャリといい放つ。ミカは頬を膨らませた。


 む~!別にハルカ先輩の見せてっていった訳じゃないのに!


「取り敢えずさ、学校行ってジャージ着ればいいじゃない。」

 マユリは目から鱗が落ちた。そうだ。その手があった。さすがは親友、ちゃんとした解決策を用意してくれた。そうとわかれば早く学校に行かなきゃ。家族以外にこの下着を着けているところを見せたくない。早足になるマユリ。ハルカはマユリの周囲を監視し、突発的に起こるアクシデントに備える。

 そんな二人三脚の様に歩いている二人をよそに、ミカは足を止めていた。

「本当にそれでいいんですか?」

 背後から二人を呼び止める。何のことかと足を止め、振り返るマユリとハルカ。ミカは凛とした姿で立っていた。そしてスゥっと息を吸い込み・・・

「それじゃ立派な痴女になれませんよ!」

 大声で高らかと、そして堂々と、恥ずかしげもなく、とんでもないことを言い放つ。周りに人が居なかったことだけは幸いと言えるだろう。ほんと、何言ってんのこの子・・・

「なりたくない!なってたまるもんか!」

 マユリは必死だ。今現在、制服の下が痴女姿だからだろうか。何としてもここで否定しておかないと、事実そう思われそうで怖かったのだ。


 ・・・大体、立派な痴女って何?


「もういい!わかったわ。とにかく、今やることを考えましょ。まずは、マユリにジャージを着させること。これが大前提。いいわね。あとはミカちゃん、あなたはマユリを痴女にすることを諦めなさい。」

 ジト目でミカを見ながら、言い聞かせるようにハルカは言った。


 が~ん・・・そんなぁ・・・


 ミカの中の、マユリ痴女化計画が音をたてて崩れ落ちていく。


 しかし、次の瞬間ミカは考えを改めた。


 あ、そっか。他の誰かに見られるのはもったいないもんね。付き合うようになってから、あたしの前だけでマユリ痴女先輩になってもらえばいいんだ。


 妙な納得をするミカ。

「わかりました。あたしもマユリ先輩の下半身を守ります。」

 なんか嫌な言い方をするが、協力はしてくれるようだ。

「よし、マユリガーディアンズ出動!」

 ハルカの掛け声と共に、学校に向けて歩き始める三人。前方にはハルカが、後方にはミカが、ガッチリとマユリをガードする。しかし、その移動速度はまさに牛歩の如く。果たして、彼女達は遅刻せずに登校することが出きるのか・・・


 近くでこの様子を見ていたミカのボディーガードは、呆れたような、困ったような顔をしている。


 申し付けてくれれば、私がマユリ様の下着なりジャージなりをご用意致しますのに。


 冷静な視点で、正に最良の方法を三人の後ろ姿を見ながら思っていた・・・


 

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