第18話 クラスの仲間達
木曜日の朝。マユリは早くに登校していた。今日の授業の予習をしておきたかったのだ。マユリしかいない、静かな教室での勉強は思いの外はかどった。しかし、もうそろそろ他の生徒が来る時間だ。
「おはよーかわい子ちゃん!何々?こんなに早くきて。勉強?」
来たのは、隣の席のヒビキだった。マユリよりは少し長めの髪。ふくよかな胸。痩せている訳ではないが、太い訳でもない。とても賑やかな女の子だ。
「おはよう。相変わらず元気だね。」
ちょっと呆れ気味に言うマユリ。朝からこのテンションは中々のものだ。
「そう言えば、聞いたわよぉ。かわいい彼女が出来たんだって?」
ニヤニヤしながら、からかうようにヒビキは言う。昨日のあの出来事は、学校中に広まっていたのだ。何となくこうなることはわかっていたのだが、やはりあまりいい気分はしない。
「そういうのじゃないから・・・」
スゥと目を細め、ちょっと機嫌が悪そうにボソッと言うマユリ。
背筋に寒いものを感じたヒビキ。
あっ、もしかして怒ってる?これ広げちゃいけない話題なんだ・・・
「あはははぁ、冗談、冗談だよぉ。」
そう言いながらヒビキは後退り、そのまま教室から出ていく。そしてそのまま廊下で待機した。他のクラスメイトが教室に入る前に、あの話題をマユリにしてはいけないと教えるためだ。
何故こんなにヒビキは、怒ったマユリを恐れているのか。その理由は今の一年生以外、みんなが知っていた。
この学校には今年の三月まで、スケ番というものが存在していた。彼女は新入生を力で押さえつけ、やりたい放題やっていたのだ。そして、その矛先はマユリにも向けられた。放課後、体育館の裏にマユリを呼び出すスケ番。気付いていたのだ。マユリの他とは違う気配に。武器なし、素手での喧嘩が始まるが、ご想像の通り、マユリの圧勝に終わった。それからというもの、スケ番が卒業するまでの間、マユリは大ボスとして学校には君臨することになってしまったのだ。
そんなマユリを怒らせたらと思うと・・・ヒビキは震え上がる。
その後ヒビキの活躍もあり、この話題でからかわれることが一切無くなったマユリ。だが、それでもマユリには心配事が一つだけあった。
ミカちゃん、からかわれてなければいいけど・・・
一年生の教室。
ミカは机に突っ伏していた。どうしても昨日の余韻のせいで、やる気が起きない。早く授業を終わらせて、またマユリと一緒に下校したいのだ。
そんなミカの元に、一人のクラスメイトがこれまたニヤニヤしながら寄ってくる。
「ミカ、聞いたわよ。」
何のことなのかはすぐわかった。昨日、あれだけの野次馬がいたら、すぐに噂は広がるだろう。
「そっか、聞いたんだ・・・」
溜め息をつくミカ。他のクラスメイト達もミカを取り囲むように集まってくる。みんな顔がにやけていた。
そして一斉に・・・
「よかったじゃない!ミカ、先輩の彼女になれたんだね。」
「やったね!おめでとう!」
拍手喝采の嵐。大喜びのクラスメイト達。中には泣いている子もいた。そう、みんなミカのことをずっと応援してくれていたのだ。
喜んでくれるのは嬉しいのだが、ミカの心境は複雑だった。
「ありがとう。でもごめんね。まだ付き合えた訳じゃないんだ。」
がっかりしながら言うミカ。しかしクラスメイト達は、それでもミカを褒め称える。
「何言ってるの。昨日見た子に聞いたら、二人は恋人同士に見えたって言ってたよ。」
「そうそう。お似合いだってね!」
「凄いね!頑張ったね!ミカちゃん!」
口々に最高の言葉を浴びせるクラスメイト達。それを聞いたミカはパッと顔を輝かせた。
「えっ、ホント?じゃあ脈があるのかな?」
モジモジしながらも、いい答えを期待してしまう。
「あるよ。あるある!」
「普通、好きでもない子を抱き締めたりしないよ。」
「もういっそ、襲っちゃえば?」
期待通り、ミカに自信を与える言葉の数々。襲うのはちょっと違うが、段々といつもよりその気になってきた。
「ありがとうみんな!あたし、頑張るね!」
左足で机を踏み、右こぶしを高々と上げ宣言するミカ。スカートがめくれ上がり、下着は完全に丸見えだが、そこはあまり気にしていない。
またしても教室中に拍手がおこる。皆、優しく微笑んでいた。
ミカは幸せだった。こんな素敵なクラスメイト達に囲まれて・・・
だが、ミカは気付いていなかった。クラスメイト達の本当の思惑に。彼女達がミカとマユリを早くくっつけ様とするのには、別の理由があったのだ。
もちろん、ミカに幸せになってもらいたいと願う気持ちはある。しかしそれよりも何よりも、こんな子がいつまでもフリーでいることの方が問題なのだ。
では何故それが問題なのか。それは、ミカの魅力が凄いからだ。恐らく万人受けするタイプだろう。そんな彼女にフリーでいられては、周りにいる女子達は中々恋人をつくることは出来ない。もしできたとしても、取られてしまうかもしれないのだ。そう、例えミカにその気はなくても、いずれ出会う好きな人の心を奪われてしまうかもしれない・・・
様々な思惑が交錯する教室の中。
ミカはみんなの期待に応えるべく、マユリへの思いを更に高め、決意を新たにするのであった。
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