第12話 両者K,O負け

「先輩、こっちです。」

 マユリはミカの案内で店内を進む。その姿を他の客達は唖然と見つめる。ショートヘアで端整な顔立ち。だが・・・


女客男客)え!うそ!・・・女の子!?


 おそらく、この店内でミカとほむら以外、予想だにしていなかったことだろう。見ようによっては美少年のマユリ。しかし体型、服装は女の子。皆マユリをジロジロと見てしまっていた。


女客)カッコいい子ね。確かに女の子にも人気ありそう。


男客)結構・・・いや、かなりかわいい子だな。ボーイッシュな美少女、俺は好きです。


女客男客)しかし・・・こんな子があんな下着を?


 周りから、何かぞわぞわしたものを感じ取ったマユリ。そして、なんとも言えないこの違和感。決して居心地はよくなかった。


 なんか、やたら静かだし・・・視線が痛いんだけど・・・


 注目を集める理由を、マユリは知るよしもなかった。

 それでもマユリは店内を進み、ドキドキしながら待っているほむらの傍らに立つ。

「ほむらちゃん久しぶり。元気してた?」

 気さくに挨拶するマユリ。

「は、はい!マユリお姉さまもおかわりないですか?」

 なかなかマユリに視線を合わせられないで言うほむら。モジモジした感じがとても可愛らしい。

「うん、ボクは相変わらずだよ。丈夫なのが取り柄みたいなもんだから。」


女客)ボク?きゃ~、かわいい🖤


男客)ボクっ子、好きです。


 久しぶりに聞くマユリの一人称『ボク』。ほむらはキュンとしてしまう。胸の鼓動がおさまらない。


 ああ、やっぱりほむほむはマユリお姉さまが大好きなんだ・・・


 改めて自分の恋心を知るほむら。今すぐにでも抱きつきたい気持ちをグッと堪える。


 二人席だった為、マユリはミカを席に着かせ、自分はその場で立ったままでいることにした。後輩を立たせたままにするつもりも、長居するつもりがなかったのだ。


 外暗いし、二人も早く帰らせないと・・・


 後輩を思う先輩心。しかし、そんな気持ちを知ってか知らずか・・・

「先輩、そう言えば・・・あの下着、着ました?」

 ギクッ!

 急に聞いてくるミカ。マユリにとっては聞かれたくなかったことだが、ミカ、ほむらをはじめ、周りの客達も一番聞きたい話題であった。ミカは空気を読んだのだ。

「まあ、もったいないし、一応着てみたけど・・・ごめんね、ちょっとあれはないかな・・・」

 口元に手を当て、顔を赤らめながら、とても恥ずかしそうな様子で言うマユリ。ざわざわしていた周りも、一気に静かになる。


 き、着たんだ・・・きゃぁぁぁ🖤


 ミカとほむら、そして店内の他の客達も、マユリのあられもない姿を想像し、一斉に鼻血を吹き出す。床、壁、天井までもが彼女達の血飛沫で赤く染まる。まるでスプラッター映画のワンシーンの様だ。怯えるマユリ。


 何なにナニ何?怖い怖い怖い怖い!


 早くこの場から立ち去りたいマユリは、外に目を向け、二人を帰らせるよう誘導する。

「ふ、二人とも。もう外は暗いし、帰りなさい。ボクが送っていくから。」

 マユリからの嬉しい申し出。断る理由がない。

『はい!是非お願いします!』

 声が重なるミカとほむら。そして、三人は血みどろの店内を後にした。


 外はもう日が落ち、黒く伸びる歩道を街灯が照らしていた。ミカとほむらが高級住宅街に住んでいることをわかっているマユリは、特に案内を受けずに二人の少し前を歩く。そんなマユリの後ろ姿を見つめる二人の美少女。目がキラキラしている。


 後ろ姿もスッゴクいい!抱きつきたいよぉ🖤


 しかし、グッと堪える二人。何故なら、マユリが恐ろしいほど強いことをわかっているからだ。おそらく、ミカとほむらのボディーガード達が束になっても勝てないだろう。そしてその事は、ボディーガード達も知っている。

「確か、あそこの角を曲がったらほむらちゃんのお家だよね。」

 歩きながら顔だけを後ろに向けるマユリ。

「はい。覚えててくれたんですね。うれしいですぅ🖤」

 中学生時代、部活で遅くなった時などに、こうしてマユリは後輩たちをよく送っていたのだ。ちなみに、ミカの家はもうちょっと先にある。

 三人はほむら邸の大きな門の前にたどり着いた。

「じゃあね、ほむらちゃん。」

 マユリはほむらに優しく微笑む。しかし、ほむらはうつむいてしまった。

「ありがとうございました。・・・あの、マユリお姉さま。また・・・ほむほむと会ってくれますか?」

 寂しそうな顔でマユリに聞くほむら。もしかすると、またしばらく会えないかもしれない・・・胸の辺りがギュッと締め付けられてしまったのだ。

 何かを感じ取ったマユリは・・・

「もちろんだよ。。ほむらちゃん。」

 と、次もあるという言い方に変えた。顔を輝かせるほむら。


 お姉さま、大好きですぅ🖤


 その時、一陣の風が低空から上空へと吹いた。三人のスカートがめくれ上がる。完全に不意討ちだったため、誰も反応できなかった。一瞬だか、露になる三人の下着。本来女子なら、それでも慌ててスカートを押さえるだろう。しかし、マユリ以外そうはしなかった。ミカとほむらの視線は、ただ一点に集中していたのだ。


 マユリ先輩の・・・見ちゃった🖤


 お姉さま・・・ピンク・・・かわいい🖤


 いつものスポーティー下着ではなく、昨日買った女の子らしい下着をマユリは身に付けていたのだ。

「もう!何なの?やらしい風だな!街中じゃなくてよかったよ。ねえ・・・えっ、どうしたの?」

 見ると二人とも鼻の辺りが血まみれだ。あれだけファストフード店で出血したというのに、まだ出るのか。これでは出血多量で命に関わるのではないかと心配になってしまう。案の定、二人はその場でバタンバタンと倒れこんでしまった。

「だ、大丈夫?ちょっと待ってて。今家の人呼んでくるから!」

 マユリは急いでほむらとミカの家の使用人を呼びに走り出す。


 薄れいく意識の中でミカとほむらは思っていた。


 ごちそうさまですぅ🖤

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