第7話 四性天の一人、アリス登場

「これなんかいいんじゃない?」

 マユリは母親と一緒に、昨日ハルカ達と訪れたランジェリーショップに来ていた。

 母親が選んだ下着は、まあまあ生地はある方だが、同時に色気もありすぎる。色は赤だし・・・

「いや、ボ、ボクはこっちがいいなぁ。」

 マユリが選んだのは、色気こそ無いが、女の子らしい下着だった。いつも着用しているスポーティーなものとは違うが、こういうものでないと納得してくれないだろう。

「それがいいの?う~ん・・・まあいいわ。じゃあそれと、それの色違いを買ってあげる。ただし、ちゃんと着るのよ!」

 念を推してくる母親。マユリ的には一応着られるものを選んだわけだから、特に問題はない。

「うん、わかったよ。約束する・・・!」

 母親が持っている下着の中に違和感を感じたマユリ。

「ちょっ、母さん!それは・・・」

 見ると、マユリが選んだ水色の下着の他に、黒と赤とピンクの下着が混ざっていた。

「色はお母さんが選びます。文句ある?」

 うぅ・・・

 お金を出してくれるのは母さんだし、文句を言って、際どいのを買われても困るし。

 仕方がないと観念したマユリは、母親がレジを通すのを黙って見ているしかなかった。


 マユリは母親とは別行動で、デパートの中を歩いていた。ちなみに母親は弟と妹の服を見に行っている。

 マユリがいるこの2階には、様々な専門店が奥までぎっしりと連なっていた。その中でも一際目につくファッションブランドのショップがある。店の中には色々とかわいい服が並んでいた。

 

 もしボクが、こういう服の似合うような女の子だったらなぁ・・・

 

 ため息をつくマユリ。おそらく、マユリほどスタイルが良くて、端正な顔立ちの美少女であればどんなかわいい服でも着こなすことができるだろう。しかし、今まで動きやすいといった理由で少女らしい服を着てこなかったマユリには自信がないのだ。こういう服を着ている自分が想像出来ないのだ。

 自分が着れそうな服が置いてあるショップを探しながらフラフラと歩いていると、正面から見たことのある顔の少女が、大量の荷物を持った男と歩いてくる。

 ストレートヘアの長い黒髪。黒いワンピースで女の魅力を醸し出し、肩には大きめのストールを羽織っている。見るからにお嬢様といったその少女は、マユリの後輩だと思われた。しかし、確信が持てなかったマユリは、そっと声をかけてみることにする。

「あの~。確か、アリスちゃん・・・だよね。久しぶり。今日は彼氏とお買い物?」

 突然声をかけられた少女は、不機嫌そうにマユリを見る。しかし次の瞬間、少女は目を真ん丸にし、顔を真っ赤にし、嬉しいような困ったような顔を見せる。

「あ、あら、ごきげんよう。マユリ様ではありませんか。相変わらずお美しい。」

 とても上品な喋り口調だ。

「マユリ様もお買い物ですか?あっ、ちなみにこの男はワタクシのただの下僕です。決して彼氏ではありませんわ。」

 腕をプルプルさせ、アリスのものであろう荷物を辛そうに持っている下僕。そんな姿を哀れに思ったマユリは、アリスを注意する。

「アリスちゃん、彼可哀想だよ。荷物少しもってあげたら?」

 マユリは少し怒ったような顔をする。そんなマユリの顔を見て、物凄く焦るアリス。


 ああ、どうしましょう。このままじゃマユリ様に嫌われちゃうかも!


 そう、アリスはマユリを恋愛対象として見ている四性天の一人だった。なのでマユリに嫌われるということは死活問題に近かったのだ。


「あっ、何ならボクも手伝おうか?」

 男から荷物を少し分けてもらおうと手を差し伸べるマユリ。それを慌てて止めるアリス。

「だ、大丈夫です。私持てますから。ほら、あなたも荷物を置いて、帰っていいわよ。」

 マユリが自分に不信感を募らせる前に、とっとと下僕を帰らそうとするアリス。が、彼は微動だにしなかった。

「嫌です。だって、このまま帰ったらアリスさん、僕のこと踏みつけてくれないじゃないですか。今日はもう、ねじれるように踏んでいただくのをとっても楽しみにしてきたのに。」

 真顔で言う男。引くマユリ。ため息をつくアリス。


 ああ、何でワタクシの周りにはこんな男ばかりが集まるのでしょう・・・


「わかりました。では、そのまま持ってなさい。後で、思いっきり踏みつけてあげるから。」

 マユリの前でこんなこと言うのは心底嫌だったが、こうでも言わないと収集がつかないと思ったアリス。それを聞いて顔を輝かせる男。

「あ、あざーす!」

 ご機嫌だ。

 更に引くマユリ。


 まったく、だから男って嫌いなの!


 マユリ様の誤解が深まるばかりだわ!


 ・・・それよりも・・・

 

 こうして面と向かってマユリと話したことがないアリス。好きな人の前では、どうにも緊張して上手く話すことが出来なかったのだ。これも何かの縁。

 アリスは思いきってマユリに声をかける。

「あの・・・マユリ様。この後ワタクシとお茶でも致しませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る