第2話 親友ハルカ

 衝撃の告白から一夜が明けた、朝の登校時間。マユリは肩を落としながら歩いている。あの後、数分間抱き締められていたが、何とか自分の身体からミカを引き離すことができた。しかし、その代償としてデートの約束を漕ぎ着けられてしまったのだ。その日は明日の土曜日。

 深いため息をつき、トボトボと歩くマユリの背後に怪しい影が忍び寄る。

「マ~ユリ!オハヨッ!」

 突然後ろから声をかけられ、そして肩を叩かれたマユリは、口から一瞬心臓を飛び出してしまった。落ち込んで下がっていた肩も突発的に上がってしまう。完全な不意打ち。

「びっ、びっくりさせないでよハルカ。」

 犯人は、マユリの同級生だった。毛先が外側にカールしている、肩まである癖のある髪。童顔の可愛らしい顔には、今風のメイクが施されている。彼女はマユリの中学からの親友、ハルカだ。

 まだ心臓がドキドキしているマユリだったが、明日のことを考えてしまうと胸の鼓動は落ち着きを取り戻し、再び肩が下がってしまう。

「なによぅ、そんな驚いて。考え事?元気ないようだけど、なんかあったの?」

 あからさまに悩んでいる様子のマユリを気遣うハルカ。だが、まさか女の子に告白されたとは言えず、話をはぐらかす。

「別に、何も・・・あっそうだ、明日図書館行けなくなっちゃったから。ごめんね。」

 高校に入ってからマユリは、ほぼ毎週の土曜日ハルカと図書館で一緒に勉強してきたのだ。

「そっか。残念。何か用事でもできたの?」

 ハルカは、まあ仕方ないと思いながらも、一応事情を聞いてみる。

「うん、ちょっと後輩の子と買い物いく約束しちゃって。」

 陽気に歩いていたハルカだったが、ピタッとその足を止める。

「それ、男?女?」

 マユリからはハルカの後ろ姿しか見えないが、ものすごい圧を感じる。

「女の子だけど・・・」

 恐る恐る言うマユリ。圧はまだ抜けていないが、ハルカは振り返り、にこやかな顔で更に質問してくる。

「どんな子?可愛い?」

 何故そんなことを聞いてくるのか。マユリには全くわからなかった。だが隠す必要がないと思い、正直に話す。

「ほら、覚えてるでしょ?中学のとき部活が一緒だった後輩のミカちゃん。あの子だよ。うちらと同じ高校に入ってたみたいで・・・それで昨日声かけられて・・・」

 マユリの声が段々と小さくなっていく。何故ならミカの名前を出した時点で、ハルカの圧が急激に上がったからだ。

 ・・・なんか、怒ってる?

「あの子、うちらと同じ高校入ったんだ。ふ~ん・・・追いかけてきたって訳ね。」

 ぶつぶつと謎の台詞を言い放つハルカ。そして、ある提案をしてきた。

「明日、あたしも一緒にいっていい?」

 マユリは顔を輝かせる。願ってもいないことだった。三人ならば、最悪襲われることは無いかもしれない。でも・・・なんかミカに悪いことをしてるみたいで、少し気が引けてしまったマユリは顔を曇らせる。

「一応聞いてみるね。ちょっと待ってて。」

 マユリは携帯電話を取り出すと、ミカにメールを送る。すると、そのまま画面を見ている間に返信が来た。

『先輩!初メール嬉しいです!いいですよ。いきなり二人きりじゃあたしも緊張しちゃうし。明日が楽しみです。』

 いい子なのには違いないのだが、昨日のあの言葉が未だに頭のどこかで引っ掛かってしまう。

 マユリはハルカにOKであることを伝えた。

「やった!久しぶりにマユリと買い物できるね。楽しみだな。」

 どうやらハルカの機嫌が直ったようだ。どうしたんだろう。いつものハルカっぽくなかったけど・・・マユリの疑問は解決しなかったが、二人はいつも通り、一緒に登校していく。この時期まだ肌寒い日が続くが、穏やかな天気だ。ハルカの笑顔に、少し元気をもらったマユリ。

 そんな二人を木陰から見つめる一人の少女。ハンカチを噛んで、とても悔しそうにしていた・・・

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