恋の無い愛

猫屋 こね

第1話 告白

「先輩!付き合ってください!!」

 突然の告白に、瞳孔が開く思いのマユリ。放課後、昇降口で靴を履き替えているタイミングでの出来事だった。高校2年生のマユリは、意外と人気があった。ショートヘアで身長は高い方ではないが、顔立ちは整っていて小顔。美少女であることは間違いない。なので、今までも同様の告白を数多くされてきたのだが、すべて丁寧に断ってきた。何故なら、マユリには夢があったからだ。元々恋愛に興味がなかったということもあるが、それよりも今は夢に向かって勉強することが最優先だった。

 では何故、今回の告白にマユリは驚いてしまったのか。

 それは・・・

「先輩・・・じゃ駄目ですか?」

 そう、ここは女子高で、相手が女の子だったからだ。

 ・・・どうすればいいの?

 あからさまに動揺を隠せないマユリ。しかもこの子は、中学の時同じ部活に在籍していて、とても可愛がっていた後輩だった。邪険にしたくはない。

 辺りに人はいない。夕方6時を過ぎれば、部活に在籍しているもの以外残っていないだろう。マユリは図書室で勉強していた為この時間になってしまったのだ。

 彼女の告白からどれくらい時間が経ったことだろう。ともかく、何か言わないと。

「あ・・・あのねミカちゃん。達女同士なのはわかってるよね。」

 マユリは俗にいう『ボクっ子』だった。そして見た目も、見ようによっては美少年に見えてしまう。だからだろうか。同性異性に関わらずモテてしまうのは・・・

「はい。わかってます。でも・・・」

 ミカはうつむき、そして上目遣いでマユリを見つめる。

「それでも好きなんです。大好きなんです。先輩のこと考えると、身体が熱くなるんです。」

 顔を赤くし、涙目で訴えるミカ。今にも抱きついてきそうだ。これはまずい・・・

「ごめんなさい。ボク、今は誰とも付き合う気はないの。だから・・・」

 『お断りします』。と言おうとしたマユリだったが、その前にミカは食い気味で言葉を重ねてきた。

「じゃあ、付き合う気になったらあたしと付き合ってくれますか?それとも・・・あたしのこと・・・嫌いですか?」

 視線を下げ、悲しげな表情でマユリの答えを待つミカ。その何とも切な気で美しい姿を目の当たりにしてしまったマユリは、思わずキュンとしてしまう。

「いや、嫌いとかじゃなくて・・・ミカちゃんキレイだし可愛いし、絶対モテるはずなのに、何で男の子じゃなくてボクみたいな女を好きになったのかなぁって。」

 今月高校1年生になったばかりのミカは、まるでお人形さんのような、誰が見ても可愛いと思うほどの美少女だ。艶のある長い黒髪、細身だが女の子らしい丸みを帯びた身体、吸い込まれるような大きな目。中学生の時も可愛いと思っていたが、高校生になったミカは更に女性的な魅力を上げていた。

「男なんて興味ないです!先輩がいいんです!先輩じゃなきゃ駄目なんです!昔からあたしは先輩のことだけ見てました。でももう見てるだけじゃ嫌なんです!」

 ミカは本気だ。しかし、口元のヨダレが少し気になるマユリ。

「だって、先輩カッコいいし・・・あたし以外の誰かに先輩を取られるのが怖いんです。だから、だから・・・あたし待ってるんで、お願いします。その時が来たらあたしと付き合ってください!いや、結婚してください!」

 まさかのプロポーズ。いや、まだ高校生だし・・・女同士だし・・・

 混乱するマユリ。

 取り敢えず・・・

「か・・・考えとくわ。」

 と言っておく。しかし、これがいけなかった・・・

「考えてくれるんですね!あたしのこと!先輩があたしのこと考えてくれる!うれしいですぅ!」

 マユリの胸に飛び込むミカ。そしてクンクンとしだす。

「ああ、先輩いいにおい。柔らかい。この身体がいずれあたしのものになるのね・・・ああ、早くあたし色に染めたい・・・」

 ・・・うん、この子、ヤバイ子だ。

 背中に冷たいものを感じる。

 無意識にこんなことを言い出すミカに、警戒するマユリ。いざ付き合ったら何をされるかわからない。

 ・・・こわい。

 マユリは空を見上げ涙を流す。

 ボク、これからどうなってしまうんだろう・・・

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