51話 俺がおかしいんじゃない。いつだって、俺だけが正常で、俺以外の全部がおかしいんだ。


 51話 俺がおかしいんじゃない。いつだって、俺だけが正常で、俺以外の全部がおかしいんだ。


「準備運動の段階で感謝はいらない。本番が終わってからもいらんけど」


「じゅんび……えっと、それって……もしかして……今、殺した二体が、この前のロイガーみたいに……強くなって復活する……ってこと?」


「ああ、たぶんな。知らんけど」


 センが返事をしたと同時、

 ツァールとイグの死体がグニョグニョと蠢きだす。


 当然のように復活したツァールとイグは、


「「ふぅ」」


 軽く呼吸を整えてから、


「さて」

「それでは」


「「本番を始めようか」」


 などと、ピッタリと息を合わせて、

 そんな言葉を放った。


「……もしかしたら、センエースエンジンとやらを搭載してくるかとビクビクしていたが……お前らは、そのパターンではないみたいだな」


 などと言いつつ、センは、ピョンピョンと、その場で軽くジャンプをして、体の軸を整える。


 そんなセンに、ツァールが、


「……貴様は、センエースエンジンを搭載した二体の神格と殺し合うつもりだったのか?」


 純粋な疑問を投げかけてきた。

 センは、間髪入れずに、


「もし、二体ともエンジンを搭載してくるようなら、いったん、銀の鍵で逃げるつもりだった。さすがにダルすぎるからな。負けるとは思わんけど……いや、うん……まあ、うん」


 軽く言葉を濁してから、

 『んん』と咳払いで場を整えて、


「もし、エンジンを搭載していないなら、二体同時に相手をしないと、鍛錬としては微妙。さあ、どうしたものか、と考えた上でのアレコレだ」


 と、自身の状況を軽く説明してから、

 センは、


「まあ、俺がどう思っているかなんかどうでもいい」


 サっと武を構えて、


「さあ、いくぞ。ツァール&イグ。殺してやる」


 抹殺宣言をかましてから、

 センは、時空を駆け抜ける。


 ――覚醒したツァールとイグは、どちらも、

 とんでもない強さだった。


 『同時に二体』という重荷が、なかなかしんどかったが、


(これならいける。十分に対処しきれるレベル。楽勝ではないが、絶望するレベルじゃない)


 ロイガーとウムルという二回の地獄を経て成長したセン。

 ツァールとイグの二体同時討伐という地獄も、

 余裕ではないが、普通にこなせるようになっていた。


(俺は強くなっている……そして、まだまだ強くなれる……っ)


 成長を感じている時のセンエースは止まらない。

 より高く、より遠く、より速く、より強く。


 センエースは止まらない。

 あふれる脳汁に溺れながら、

 センは、地獄の中で無限に舞い続ける。



「――龍閃崩拳」



 強大な魔力とオーラの塊となったセンの拳は、

 ツァールとイグの両方を飲み込んだ。


 完璧な一撃で、二体の神格を滅ぼしたセン。


 その背中を見て、紅院は、


「あなたは……おかしい……全部……」


 つい、素直な感想をこぼしてしまった。

 感謝を忘れて、『驚愕』だけに包まれる紅院。


 そんな彼女に対し、センは、最後に、



「俺がおかしいんじゃない。俺だけが正常で、俺以外の全部がおかしいんだ」


 狂人の戯言でしめくくった。

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