41話 難易度爆上げスイッチ。


 41話 難易度爆上げスイッチ。






「……はっ……夢かっ……」







 『初日の朝』に目覚めたセンは、

 色々な期待を込めて、定例の『夢か』発言をかましてみたが、

 しかし、


「……はいはい、わかっているよ……夢じゃないってことぐらい」


 銀の鍵や、自分の能力など、

 引き継いでいるものを全て確認しつつ、

 しんどそうにつぶやくセン。


「……また、黒木に説明かよ……あぁ……だっるぅう……うっざぁ」


 頭を抱えて、髪をかきむしりながら、


「はぁああああああ……」


 深い、深い、タメ息をつきつつ、

 スマホに手を伸ばして、

 黒木に電話をかけた。


「……はい……誰ですか?」


 いつも通り、警戒心全開の息遣い。

 決して自分の名前は名乗らないスタイル。


 そんな黒木愛美に、センは、


「お前が小三の時に書いていた自作小説の主人公の名前は――」


 いつも通りの展開で、彼女をダウジングマシンに仕上げていく。



 ★



 黒木への業務連絡を終えた直後、


 ピンポーン、


 と、チャイムの鳴る音が響いた。


「……ん? このタイミングでチャイムとか……鳴っていたっけ? いや、鳴ってねぇよなぁ……今回は、電話で奇行を働いたわけでもねぇし……」


 大きめの疑問符を心に抱きながら、

 センは、警戒しつつ、玄関へと向かった。


「はい、どちらさん?」


 と、言いながら玄関を開けるが、

 そこには誰もいなかった。


「えぇ……まさかのピンポンダッシュ? 嘘だろ…………ん?」


 ふと、足元に目線を向けると、

 そこに、手のひらサイズの『押しボタン式スイッチ』が転がっていた。

 そのスイッチの下には、A5サイズの小さなメモ書きが敷かれている。


 センは、そのスイッチを手に取りつつ、

 メモ書きに目を通す。


 書かれていた内容は、


『これは【敵が強くなるスイッチ】です。押すと、今後、これまでに倒した神話生物が劇的に強くなります。あなたの強さに応じて能力が上がっていくタイプの強化ですので、今後、常に死と隣り合わせのスリリングなタイムリープをお楽しみいただけます。当然、敵が強くなった分、習得できる経験値は増えます。倒すのが大変にはなりますが、効率よく強くなることが可能です。ご利用は計画的に』


「……うわー……」


 ダルそうに、そうつぶやくセン。


「んー……これは……もしかして、押すと、クトゥルフ・オメガバスティオンも強くなるのかね? そうだとすると意味がないんだが……」


 と、不安になっているセンに、

 ヨグシャドーが、




「カスを強化するだけならともかく、クトゥルフ・オメガバスティオンほどの高みに至った神格を、ボタン一つで強化することなど不可能。そもそも、『これまでに倒した神話生物が強くなる』と書いてあるだろう。貴様の目は節穴か? 説明書はちゃんと読め。バカチンが」




「……うるせぇなぁ。ケアレスミスでグチグチいうんじゃねぇ。俺がヘコんだら、どうする。俺は繊細なんだぞ」


 母親に小言を言われたガキのように、

 軽く拗ねてから、


「……なるほど……あくまでも、道中の敵が強くなるだけか。なら、押した方がいいか……んー、いや、どうだろう……ぶっちゃけ、もう、これ以上、人生の難易度を上げたくないんだけどなぁ」


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