23話 センエースの『意識の底』にいる二人。


 23話 センエースの『意識の底』にいる二人。


「10分以内に飛ばなければ、二度と、過去に記憶を飛ばすことはできない。世界を取り戻す方法を完全に失う」


「……」


「どうするかは貴様の自由だ。いつだってそう。最後に決めるのは貴様自身。自由に決めろ」


 最後にそう言い捨てると、

 ヨグシャドーは完全にダンマリを決め込んだ。


 声をかけたり、ちょっとした質問を投げかけたりしてみても、

 ヨグシャドーは黙ったままで、一言も応えようとはしなかった。


「……」


 2分間は、その場でへたりこんだままだったセン。


 しかし、2分と5秒が経過したところで、


「……あと7分55秒か……」


 などと独り言をつぶやきながら、腕時計で時間を確認しつつ、

 ゆっくりと立ち上がる。


「すぅ……はぁ…」


 深呼吸で自分を整えながら、

 ぐるりと、世界を見渡す。


 終わった世界。

 全人類が死滅した世界を横目に、

 センは、


「ひさしぶりだな……ここまで完全な『独りの時間』は……」


 などとつぶやきつつ、

 『この20年間、片時も手放すことなく、常に携帯していた銀の鍵』を、内ポケットから取り出す。

 本当は『終わった』などと思ってはいない。

 センエースの『意識の底』には、いつだって二人いる。

 楽観視する自分と、

 現実を直視する自分。



「くそったれが」



 手の中で、ギュウと、銀の鍵を、強く、強く、握りしめる。


「……また『以前のループ』に戻るのなら……マナミに電話をしないといけないな……あいつに、いつも、どういう説明していたっけ……確か……ああ、そうか。ソンキー・ウルギ・アースの小説だ……はは……忘れないものだな……まあ、1000回近く繰り返したことなんだから、憶えていても不思議じゃないか……」


 などとつぶやいているセンに、

 ヨグシャドーは、


「一つだけ言っておく。幻爆の剣翼を止めるために必要な条件は、クトゥルフ・オメガバスティオンを倒すこと。しかし、クトゥルフ・オメガバスティオンの強さは銀メダリスト級だ。金メダリストである私の本体には及ばないが……間違いなく銀メダリスト級の力を持つ化け物。――あとはわかるな?」


「……アウターゴッドを複数体吸収している今の俺でも……相手にならない?」


「当然だ。クトゥルフ・オメガバスティオンをナメるな。あと、もう一つだけ言っておくと、ボーナスステージは今回のループだけだ。次回からはいつものループ。――つまり、もはや、爆発的に強くなることはできない。地道にコツコツと、小さな成長を積んでいくしかない」


「……気が遠くなるな……ウルトラレアどころか、スーパーレアすらめったに出ない、渋すぎの地獄ループに戻るのか……」


「人間は、一度上がってしまった生活レベルを下げることが、なかなかできない。貴様は、それと同じ感覚を味わうだろう。ゴミのようなアイテムしか見つからない絶望をかみしめながら、毎日を積み重ねるしか道はない」


 ヨグシャドーに現実をつきつけられて、

 センは、普通にクラっとしてしまった。


 ほとんど反射的に、背中が丸くなった。

 まぶたが重くてあけられない。

 現実を見るのがしんどくて仕方ない。

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