5話 最終的な責任の不法投棄。


 5話 最終的な責任の不法投棄。


「陛下。部下の話によりますと……どうやら、現状、世界中に存在するすべての人間が、この露出狂の声と姿を認識できている様子です」


「おぉ……マジすか」


「そして、この露出狂の指示に従わず、目を開けていた者は……両の眼球が蒸発したそうです……」


「……お……ぉお……なるほど、蒸発ですか……そいつは、おだやかじゃないですね……」


「どうやら、『死』には至っていないようですが……」


 などと、状況説明をはさみつつ、

 ゾーヤは、真っ青な顔で、センに、


「……い、いかが……いたしますか?」


 と、指示を請う。


 ――不謹慎な話だが、ゾーヤは、この時、

 『こういう時に、丸投げできる相手がいるというのは心底楽だ』

 などと思っていた。


 これまで、ゾーヤは、

 『天災』であったり、『恐慌』であったり、

 『国同士の軋轢』であったり、『人権問題』であったり、

 そんな『世界的な大問題』が起きた際に、

 『最終的な責任』を求められる立場にあった。


 その激務をこなせるだけの器があったから、

 これまでは、どうにかこうにか必死こいて処理してきたが、

 しかし、どれもこれも、

 やりたくてやっていたわけではない。


 他に出来る者が少なかったから、仕方なく、やらざるをえなかっただけ。

 『高い地位を望むだけの者』は多くとも、

 『その地位に見合った責任をとれる者』は少ない。


 彼女は、役職をまっとうできた。

 だから、ずっと頼られてきた。

 そんな彼女だからこそ、誰にも頼ることができなかった。


 しかし、今は違う。

 今、彼女の隣には、

 命をかけて奉仕するに値する『最高の王』がいる。


 そんな、ゾーヤの期待を一身に背負っている『最高の王』は、

 ゾーヤからの『いかがいたしますか、陛下』という問いかけに対し、



「いや、いかがって言われても……」




 と、年相応な、たどたどしいお返事をお届けする。


 センエースは、極めて優秀な『特攻隊長』であり、

 完璧な『象徴』たりうる器の持ち主ではあるが、

 しかし、決して『指揮官』として優れているわけではない。

 『概念的な命の指導者』にはなれても、

 『具体的な政治の手腕』などは持ち合わせていない。


「世界中、全員がターゲット……そんなもん、剣翼と一緒で、防ぎようが……」


 普通に困惑していると、

 そこで、変態みたいな女が、満足げにうなずいて、






『ごきげんよう、数だけは一丁前の、矮小な虫けらどもよ。私の名を心に刻め。私はイブ=スティトゥル。遊泳する暗黒の血液。大いなる神格。いと尊きアウターゴッドの一柱である』






 淡々と自己紹介をするイブ。


『貴様らの命は、すでに、私の手の中にある。殺そうと思えばいつでも殺せる。それを踏まえた上で、これからの話を聞け』


 よどみなく、流れるようなペースで、


『これから、貴様ら全員に対し、絶望を与える。自殺は許さない。貴様らの命は、私のもの。今後、いかなる自由も許されないと知れ』


 決してブレない一定のトーンで、ナメたことをほざいてから、

 イブは、雑巾をしぼるようなポーズをとる。

 胸の前で、両手を左右対称の上下にひねりあげる感じ。


 すると、そこで、


「「「「「いったぁああああっ!」」」」」


 この場にいる全員の全身に激痛が走った。

 すべての爪を一斉にはがされたような深い痛み。

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