79話 英雄としての義務。


 79話 英雄としての義務。


 『その一手はまずい』と、センの理性が叫んだ。

 ――しかし、気付いた時には、もう、センは飛び出していた。




 ――これまで、センは当然として、

 アウターゴッド三体も、

 『自分たち以外の他者』に被害が及ばないよう、

 計算しながら戦っていた。


 『その行動に込められた意味』は、

 決して、優しさや、配慮などではなく、

 単なる見栄でしかない。


 高みにある者の見栄。

 神としての矜持と言ってもいいのだが、

 結局のところはただの見栄。


 センは、明らかに、ゾーヤたちを守りながら戦っている。

 そんなことは、神であるヤイたちも気づいていた。


 だからこそ、ヤイたちは、ゾーヤたち一般人を、正確にシカトした。


 『神である自分たちが、三対一という優位な状態にある中で、敵の庇護対象を狙う』


 そんな無様は晒せなかった。

 センエースが『自分達よりも上位の存在』であれば、

 四の五の言わずに、なりふり構わず、

 ゾーヤたちを人質にとるなど、

 そういうあからさまな行動をとることも出来ただろう。


 しかし、残念ながら、センは、

 存在値だけで見れば格下の下等生物。


 『正面から殴り合っている』という事実があるだけでも充分恥ずかしいのに、その上、人質を使うというのは、さすがに許せない。


 『他者がどう思うか』という問題ではなく、

 自分自身の見栄の問題で許せない。



 ――つまり、この状況は事故。



 センが、

 『ゾーヤをかばって、異次元砲の直撃を受けて大ダメージを負った』ことは、

 完全に、ただの事故である。



「……っ……く……ぁ……」



 これまで、センは、

 『アウターゴット三体の大技』を、

 全て、完璧に回避してきた。


 だからこそ、そこまでダメージは負っていなかった。


 ほぼ無傷で、アウターゴッドを翻弄する英雄。

 他の誰にもマネできないヒーローのワルツ。


 けれど、もう難しい。

 『大ダメージを受けてしまい死にかけ』の今、

 もう、これまでと同じよう舞うことは不可能。



 ――そんな、ボロボロになったセンに、

 命がけで命を守られたゾーヤは、



「なっ、なぜ、私をかばうっっ?!」



 『心底、意味が分からない』という顔と声音で、

 センにかけより、流れる血を手で受け止めながら、

 目に涙を浮かべ、


「私をかばう余裕などなかっただろう! 相手は三体! あんたは、あの三体を殺すことだけを考えていればよかった! それ以外を考えるべきではなかった! あんたは大バカ者だ!!」


 極限状態のドン底で、

 色々な思想が錯綜し、

 頭の中がグチャグチャになったゾーヤは、

 ただひたすらに、脊髄反射で、

 心の底から思ったことだけを叫び散らかす。


 そんなゾーヤに、センは、


「うるせぇ……耳がキンキンするから、ワーキャーわめくな……」


 いつも通りのセンエースであろうと努める。


 ボロボロの姿で、

 しかし、そんなことはお構いなしとばかりに、

 ゆっくりと立ち上がるセン。


「お前をかばったんじゃない……回避しようとしたら、逆にあたっただけのこと……もうお気づきかもしれんが、俺は、まあまあのウッカリ屋さんなんだ」


「そ、その奇妙な嘘をつくことに、いったい、なんの意味がある?!」

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