64話 てのひらクルクル。


 64話 てのひらクルクル。


「所詮は、単なる奇形の怪人じゃないか。武の心得なら私にもある。こうして、武器も持っている。魔法などという厄介な手品を使われると、確かに面倒だが、それ以上の恐怖は感じない。殺せるさ。殺してみせる。見ていろ」


 そう言いながら、

 ナバイアは、ギの眼球めがけて拳銃をブッパなった。


 その結果、どうなったか。


「――笑わせてくれるじゃないか、虫けら。まさか、この私に、オモチャ一つで挑むとは。それが、勇気であるならば称賛に価するが、しかし、実際のところはただの無謀。愚か、愚か」


 ニタニタと笑いながら、

 ギは、楽勝でキャッチした銃弾を、手の中でコナゴナにしてみせる。


「っ?! ぁ……な……」


 ドラ〇ンボールでよく見る風景を体現されて、

 ナバイアは、さすがに気づく。


 顔をゆがませ、

 奥歯をかみしめながら、


(……な、なるほど……銃では無理だ……)


 ナバイアは、血気盛んで自信過剰だが、決して『愚者』ではない。

 リアリストがすぎるだけで、頭が悪いというわけではない。


 目の前で現実を突きつけられれば、

 それが、どれだけ荒唐無稽なものであろうと、

 それまでの心情や思想がどうであれ、

 一転して、受け入れることも可能となる。


 だから、一瞬で、手のひらをクルリと返し、


「――し、神話狩りを呼んでくれ……頼む……私が間違っていた……」


 後退りしながら、

 後ろにいる同胞たちに救援コールの要請をするが、


「だから、次元ロックをくらっているから、電話が通じないと言っているのよ! 貴様は、人の話を聞くということができんのか?!」


 イライラがマックスに達しているゾーヤは、

 ナバイアの背後から、五番腰椎あたりをめがけてヤクザキックをいれる。


 大幹がシッカリしているナバイアは、

 オールドレディのキックで倒れこんだりはしないものの、

 軽いヘルニア持ちであるため、


「うぐっ」


 激痛に顔をゆがませて、ゾーヤを睨む。


 そんな二人のやりとりをみながら、

 ギは、


「そこの『オモチャを持った虫けら』よ。貴様は、私にオモチャが効かないということは理解したようだが、しかし、まだ、私という神に対する認識が、まったくもって足りていない。貴様は無能すぎて、『命の高み』を正しく理解できない。悲しい話だし、不愉快な話でもある。というわけで――」


 ニタニタと笑いながら、

 ギは、自身の右隣に、

 黒いジオメトリを出現させる。


 そのジオメトリに手を突っ込み、

 奥から、ズブズブと、一本の黒い剣を抜き取ると、


「受け取れ、虫けら。『虚空の王を模した剣』の影――略して虚影」


 刃を持ち、柄の部分を差し出すギ。


 『虚影』の禍々しさは、見るだけで、常人のSAN値を削るほどの黒さ。


 ――ナバイアは、『常識』というものが欠けている。

 その上、『武器』という『力』に絶対の信頼を置いている。

 そんなナバイアは、だから、

 虚影の圧倒的な『黒さ』に一瞬で魅入られた。


「ぁあ……」


 虚影が、『エゲつないほどヤバいもの』だと、理性では理解しているものの、

 しかし――いや、だからこそ、ナバイアは、強く、強く惹き付けられる。


「これは……なんと……美しい……」

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