51話 覚醒のバーゲンセール。


 51話 覚醒のバーゲンセール。


「落ちろ、蚊トンボ」

「それは悪手じゃろ、ありんこぉお!」


 非常に高度なカウンター。

 積み重ねてきた年月と回数を感じさせる、

 完璧と言っても過言ではない一手。


 そのカウンターに対し、

 マイノグーラは、数値の暴力で対抗する。


 スマートさのかけらもない、

 雑な回避。


 センのカウンターを避けたマイノグーラは、

 反撃の届かない安全な距離を確保しつつ、


「……この私をアリ呼ばわりとは、傲慢にもほどがあるな」


「あんたのテンプレにテンプレで返しただけで、アリと思っているわけじゃねぇよ。むしろ、まだまだ、俺の方がアリだ。けど、俺は、そこらのアリとはワケが違うぞ。ハネが生えていて、牙があって、毒を持っていて、なかなかつぶれない……そういう働きアリだ。どうだ、ウザかろう?」


「非常に厄介ではある。しかし、アリのままなら、怖くはない」


「そうだ。アリのままじゃダメだ。もっと先に行く必要がある。オプションがいくらついていようと、ちっぽけなままじゃ、あんたの相手は務まらない。せめて、カマキリやアブぐらいのサイズ感にならないと、あんたという狂気にはあらがえない。だから、俺はもっと先へ行く!!」


 宣言してから、

 センは、胸の前で両手をあわせる。


 祈っているのではない。

 ただ、心を整えているだけ。


「俺の限界は、まだここじゃない! たった二回の覚醒で終わると思うなよ! 収穫祭はまだまだ途中! 俺が積んできた孤高を! 俺が必死になって繰り返してきた地獄を! ナメんじゃねぇええええええ!!」


 同じ一週間を1000回。

 15年前後。


 それだけでは足りない。

 それだけでは不十分。


 だが、センが積んできた時間は、決してそれだけじゃない。


 実際のところ、

 センエースが積んできた年数は、

 200億1万15年。


 もっと言えば、実のところ、

 その100倍近い時間を積んできた。



 ――だから、届く。

 奇跡の友情パワーなんかじゃない!

 機械仕掛けの神様でもない!


 ただ、『泥臭く積んできた孤高』だけが、

 センの未来をきり開く!




「――虹神気――」




 前へ。

 もっと、前へ!


 次へ。

 もっと、次へ!


 そうやって、ギアを上げていく。

 容赦なく、限界なく、節操なく!

 覚醒して、覚醒して、覚醒していく!


 そこまできて、やっと――



「――こんな短時間で、そう何度も、何度も、命の壁を破壊するとは……恐怖を感じざるをえないな。貴様は異常だ」



 まだ、マイノグーラは、本物の恐怖を感じているわけではない。

 しかし、センの異常性にマイノグーラは、

 間違いなく、マイナス寄りの特殊な感情を抱いた。


 センは、ニっと笑いながら、


「まるで、覚醒のバーゲンセールのようだろう?」


 王子テンプレで軽くチョケていくセンに、

 マイノグーラは、真剣な表情で、


「貴様の異常性に安っぽさは微塵も感じないな。凶悪に異質で、激烈に膨大」


 そう言いながら、

 グっと気合いを入れて、武を構える。



「認めよう。人の王よ。貴様は強い」



 マイノグーラを包んでいるオーラが充実していく。

 魔力がジックリと煮詰まっていく。

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