23話 脱線して、曲がりくねって蛇行して。


 23話 脱線して、曲がりくねって蛇行して。


「混乱する気持ちは分かる。俺も混乱しているからな。正直、何がなんだかわからない」


「そ、それなら……邪魔しないでもらいたいのですが……もう、時間も差し迫っていますので……」


 そんな黒木の発言を受けて、

 センは、


「焦るなよ。タイムリミットが、さっきの時点で五分なんだろ? ということは、まだ、2分ちょっとは、あるはずだ。俺がその気になれば、薬宮を殺すのに、コンマ一秒かからない。というわけで、少しだけ時間をくれ」


 そう言いながら、

 センは、


「お前らが認識している『数分後に訪れるタイムリミット』は、ガチか? 絶対か? というか、なぜ、知っている?」


 その問いに対して、K5の面々は、少しだけ逡巡したが、

 紅院が、意を決したように、


「……ニャルラトホテプが教えてくれた。これまで、ニャルラトホテプが言ったことに嘘は一つもなかった。今回だけ嘘ということは……ないと思うけれど……絶対とは言えない」


「ほう。なるほど」


 そこで、紅院は、いぶかしげな顔で、センを見て、


「あんた……だれ? ほんと……なに? 名前とかじゃなくて……なんで、私の攻撃を、素手で止められるの? 人間型のGOO……とか?」


「俺は人間だ。薄っぺらで、無様で、惨めで、みっともなくて、ダサくて、頭が悪い……ただの人間だよ」


 ハッキリと、そう言い切った上で、


「ただ、『運命に抗う気概』だけは持っている。『性根の腐り方』がハンパじゃないんでね。決められた道を素直には歩けねぇ。脱線して、曲がりくねって蛇行して、けれど、『後退』だけはしないと心に決めて、俺は今日まで生きてきた」


 そう言ってから、

 センは、右手に図虚空を召喚する。


 センが、奇妙なナイフを召喚したことに驚くK5の面々。


 『携帯ドラゴン?』という疑問符を抱くが、

 しかし、どこか、それとは違う雰囲気を感じて、

 さらに困惑は加速する。


 そんな彼女たちを横目に、

 センは、心の中で、


(図虚空は召喚できている……なのに、薬宮の呪いは解けていない……コレと、薬宮の呪いは、関係なかった? いや、おそらく、そういうことではない……)


 色々と考えてみるが、

 答えは出なかった。


 一応、


(パラレルワールドという可能性……今回の跳躍では、時間軸だけではなく、世界線も移動した……とかんがえると、ある程度、納得はいく……それが、事故なのか、バグなのか、仕様なのか……その辺は知らんが……とにかく……)


 センは、そこでいったん、そのことについて考えるのはやめて、

 彼女たちが疑問に思っているであろうことに対して、

 一つの答えを示しておく。


「俺は携帯ドラゴンを使えない。だが、『お前らが束になっても敵わない力』は持っている。というわけで、もう少し、俺に時間をくれ。まだ一分はあるはずだ」


 そこで、それまで黙ってセンを観察していた茶柱が、

 いつもよりも、あえて、呑気度を増した顔で、


「時間を与えたら、どうなるのかにゃ? 桶屋が儲かるのかにゃ?」


「……おそらく、ボケたんだろうが……絶妙に、核心をついた発言のような気もしなくはないな」

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