22話 領域外の変態ノゾ=キマです、はじめまして。


 22話 領域外の変態ノゾ=キマです、はじめまして。


「逆やったら、あたしも、同じことを思う。けど、どう思うかは、この際、関係ない。『一人だけ死ぬ』か、『全員死ぬ』か。その二択を前に、個人の感情は意味がない」


「……」


「マジで、もう時間がない。ミレー、はよ。もう、グダグダ悩まんと、一思いにやってくれ。というか、グダられる方が、しんどいねん。わかるやろ、その気持ち。死刑執行をダラダラ先延ばしとか、一番しんどい」


「……」


 ギリギリと、

 砕けそうになるほど奥歯をかみしめている紅院。


 だが、その軋みが、

 ある瞬間に、フっと緩む。

 覚悟を決めた顔。

 自身がこれから背負うことになる『重荷』と向き合う覚悟がかたまる。



「――ごめん。助けたかった」



 そう言いながら、紅院は、携帯ドラゴンをブレード状にして召喚する。

 必死で自分を殺す。

 個人の感情を押さえつけ、

 世界を優先させる意思を示す。


「知っとるよ」


 そう言って、トコは目を閉じた。


 その様子を後ろで見ていた黒木は、

 ソっと視線をトコから外し、

 茶柱も、反射的に、視線を空へとズラしていた。


 磨いたみたいな空はピカピカで、

 澄んだ青に、影のある白がにじんでいる。


 紅院の刃が、

 トコの首を切断しようとした、

 その瞬間、



「展開がジェットコースターすぎる。ちょっと落ち着け」



 両者の間に割って入り、

 片手で、紅院のブレードを止めるセン。


「……え、だれ? ていうか……携帯ドラゴンの攻撃を……素手で……ぇ、なんで……っ、ど、どういうっ……ぇ、だれぇえ?!」


 困惑しているミレーに、

 センは、


「一か月前から、あなたのクラスメイトをやっているものです。はじめまして」


 と、ソリッドな返しを決め込んでから、


「とりあえず、確認させてくれ。薬宮トコ。お前にかけられている呪いは、『薬宮トコが死なないとアウターゴッドが召喚される』というもので、その呪いのリミットが、殺気の段階で五分後……ちょっと時間が経っているから、あと2~3分くらい……それで合っているか?」


 この状況に対する適応が追い付かず、

 普通に困惑しているトコは、

 ただただ、ハテナ顔で、


「だ、だれ?」


 と、当たり前の疑問符を口にするばかりで、

 センの質問が、まったく耳に入っていない。


 センは、場を整えるように、コホンと軽めのセキをはさんで、


「状況的には、『領域外の変態ノゾ=キマ』を名乗ってもいいんだが……とりあえず、本名も名乗っておこうか。俺の名前は、セン。フルネームは、センエース。お前のクラスメイトだ。はじめまして、よろしくどうぞ」


「……」


「混乱する気持ちは分かる。俺も混乱しているからな。正直、何がなんだかわからない」


 センが、そう言ったところで、

 かたまっていた黒木が、


「そ、それなら……邪魔しないでもらいたいのですが……もう、時間も差し迫っていますので……」


 と、何が何だかわかっていないまま、

 とりあえず、思ったことを口にする。


 どんな時でも、『目の前のタスク処理に対する思考が停止することはない』という、非常に優秀な社畜スキルを持つ黒木。


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