19話 ファントムトークが乱れ散る。


 19話 ファントムトークが乱れ散る。


「お、お一人で闘うつもりですか? それはなりません。私の仕事は、主上様の盾。あのパチモノは、話にならないクソザコですが、しかし、『主上様を模したパチモノ』ゆえ、どんなふざけたマネをするか分かったものではありません。もしもの時のために――」


 と、食い下がろうとするアダムに、


「お前ら配下との『このやりとり』……ほんと、もういい。マジで死ぬほど飽きてんだよ。いい加減、勘弁してくれ。あいつは、どう見ても、俺の案件だ。お前らがどうしてもっていうから、斥侯は任せたけど、本当なら、最初から俺が出向くべきだった……というか、もっと言えば、最初から俺が相手をしたかったんだよ。お前らの心配症でがんじがらめになっている俺の、この、ハンパない不自由さ、マジで、ほんと、どうにかしてほしい」


 ブチブチと、不満を口にしてから、


「これ、命令。ガチの命令。いったん、帰れ、アダム。ハウス」


「……私にとって、主上様の命令は絶対です。しかし、主上様の『安否』は、『命令』よりも上位にあります。あなた様の命だけが私の全て」


「このやりとりも、マジでもういい。何回やった? これまでに、何回やった?」


「主上様がワガママをおっしゃる限り、私は、何度でも、同じことを口にします。それが真なる臣下の務め」


 二人は、その鬱陶しいやり取りを、何ラリーもこなしていく。

 熱量がハンパないアダムと、

 それに辟易している主上様。


 そんな二人の様子を、

 戦々恐々とした目で見つめているセン。


(なんだろう、このデジャブ……とても他人事とは思えない、この『しんどすぎる胃もたれ』は一体……)


 アダムと主上様のやりとりは、

 合計で、30ラリーほど続いたが、

 結局のところ、主上様の強固さに、アダムが折れる形で、


「……もし、何かあったら、すぐに飛び込んできます。それだけはお許しいただきたく存じます」


「うん、うんっ――OK! うん、はい、はいはい! わかったから! もう、行って!」


 思春期の男子中学生が、母親の小言を振り払うような感じで、

 主上様は、この空間から、アダムを排除すると、


「……ああ、もう……しんどい、しんどい……」


 心底から鬱陶しそうな顔で、そうつぶやいてから、

 センに視線を向けて、


「さて……時間がかかって悪かったな、まだこのやりとりに慣れてないんだ――というのは、もちろんウソで、さすがに慣れてはきているんだが……しかし、いくら慣れようと、いまだに、うまくこなすことはできない。感情っていうのは、その方向性が、プラスだろうがマイナスだろうが、どっちにしろ面倒で奇怪で厄介。人生っていうのはなかなかうまくいかない。そこが面白いんだけどね……というのも、もちろんウソで、順風満帆の方が楽で楽しいに決まっている」


 主上様は、ファントムなトークで世界を揺らめかしてから、


「戯言はこの辺にしておこうか。とりま、もう邪魔は入らないはずだから、安心してくれ。もっとも、お前の成長率しだいでは、また邪魔が入ってくる可能性もなくはないが……あいつ、最近、強くなりすぎて、俺が全力で次元ロックを張っても、普通に解除してくるんだよ……正直、このままいったら、普通に抜かれるんじゃないかと、ビビり散らかしているところだ」


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