13話 やっぱり、ヒーローじゃない。


 13話 やっぱり、ヒーローじゃない。


「……もし、お前の言う『主上様』とやらが……もし、もし、もし、仮に……俺の『オリジナル』みたいな感じだったとしたら…………たぶん、大したヤツじゃねぇぞ……」


 そうつぶやいた言葉に、侮蔑の色はなかった。

 負け惜しみでも、強がりでもなく、ただの吐露。

 心がこぼれただけ。


 ――それが分かったから、

 アダムは、


「……どういう意味だ?」


 センの言葉を、『カスの戯言』と、安易に切り捨てるのではなく、

 真摯に受け止めた上で、直球の疑問を口にする。


「だって……今の俺……けっこう、ガチで『俺』だから……」


「意味がまったく分からん」


「意地と気を張って、無駄にカッコつけて、本音に背を向けて、命に嘘をついて、英雄と言う名のピエロをやって……けど、そんな俺の『奥』にあるのは……『今の俺』だ……」


「……」


「つい、さっきまで……俺は、『俺の中に潜んだ弱さ』と戦っている気になっていた……『オメガセンエース』っていう、『別枠の何か』を仮想敵にして、必死に、『心の奥では抗っている』っていうフリをしていた……けど、本当は、自分の無様さを、『オメガ』のせいにして、逃げていただけだった」


 そう言いながら、

 『センエース』は、

 自分の両手をみつめながら、


「これまでは、自分のことを……さすがに、『もうちょっとマシな男だ』って……思っていた……思っていたかった……だから、自分の本音から、必死に目をそらして……これは、オメガのせいだって……自分をなぐさめていた」


「……迂遠な言い方はもうやめろ。もし、私に言っているのなら、少しは伝わるように努力しろ」


「伝わらなくていい。他者の理解は必要ない。お前はそこで聞いていろ。俺は、俺に言っている」


「貴様が貴様に言っている言葉を、なぜ、私が聞かなければいけない?」


「お前も知っておくべきことだと……なんとなく思うから。伝わらなくていい。理解しなくてもいい。だけど、耳の穴かっぽじって聞いておけ。たぶん、これは、お前にとっても大事な話だ……知らんけど……」


 そう言いながら、

 センはスっと立ち上がった。


 自分の中にこびりつく『鬱陶しい重荷』と、あらためて向き合う。


 目を閉じて、深呼吸をする。

 大きく、大きく。

 深く、ゆるやかに。



「むき出しになった俺の本音……俺の奥にあったヤバさ……本当は分かっていた脆さ……全部と向き合ってみて……少し気づいた」



 ゆっくりと目を開いて、

 アダムを見つめる。




「やっぱり、俺は、ヒーローじゃない」




 その言葉を受けて、アダムは、


「貴様のようなカスがヒーローであってたまるか」


 吐き捨てるように、そう言った。

 そんなアダムの言葉に、

 センは、うつむきかげんに、


「ああ、俺もそう思う」


 苦笑しながら、そうつぶやいて、


「けれど」


 グっと顎を上げて、

 まっすぐに、世界を睨みつけて、


「それでも……叫び続けたいと、俺の中で、俺の全部が叫んでいる……これだけ無様な姿をさらして……消えてなくなりたいほど恥ずかしいが……それでも……」


 センの中で、

 チリチリと、

 何かがまたたく。

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