14話 ヒリついていく。


 14話 ヒリついていく。


「俺の中で、俺の全部が叫んでいる……これだけ無様な姿をさらして……消えてなくなりたいほど恥ずかしいが……それでも……」


 センの中で、

 チリチリと、

 何かがまたたく。


 アダムは、それに気づいて、眉をしかめた。


(ヒリつく……この不可思議な圧力……)


 奥歯をギリっとかみしめる。


(やはり、主上様の因子は計り知れない。これほどのカスにも、これだけの厚みを与えてしまうとは。さすが、『そもそものエンジンの出来』が違いすぎる……)


 背中に冷たい汗が流れた。

 アダムは、どこまでも強い目で、センを睨みつけている。


(……覚醒しなさそうに見せて、結局のところは、当たり前のように覚醒する……これが、主上様の怖さの一つ。私は知っている。主上様が、いかに尊き存在であるか。ゆえに、別段、驚きはしない。……カス以下の劣化コピーとはいえ、『原本』が主上様なのだから……ただでは終わらないだろう)


 心の中で、そうつぶやいてから、


(いくらでも強くなればいい。こっちは、最初からそのつもりだ。どれだけ強くなろうと、必ず殺してやる。――いくら、原本が主上様とはいえ、劣化コピーに負けているようでは、右腕を名乗る資格はない。必ず殺す。私の上にいるのは主上様御一人だけでいい)


 臨戦態勢を取り直すアダムの前で、

 センは、



「ぶっこわれて、ゆがんで、くさって……けれど、それでも、残っていたもの……『コレ』を言葉で表すのは、きっと無理だ……不完全な言語では、けっして、形になってくれない『何か』が……俺の奥で、グチャグチャに喚(わめ)いている……」



 ビリビリと、空気がヒリついてきた。


「――これまでの人生で、俺は俺自身に、『どうしたいんだよ?』って、ずっと、尋ねてきた。でも、答えが帰ってきたことは一度もない。『俺の中の厄介な俺』は、いつだって、黙って俺を睨んでいるだけ」


 ――そこで、アダムは、


「……っ」


 自分の指先が震えていることに気づいた。

 間違いなく、武者震いではなかった。

 それが理解できたから、

 だから、アダムは、心の中心で、自分を叱咤(しった)する。


 『ふざけるな』と自分にキレ散らかす。


 そんなアダムの視線の先で、

 センは、とうとうと、


「怒りとか、吐き気とか、無力感とか、疎外感とか、やるせなさとか、虚無感とか……ほかにも、『挙げようと思えば無限に並べられるマイナスな感情』のエトセトラを……俺は、ずっと、抱えて生きてきた。でも、これは、俺だけの特別じゃなくて、生きている人間は、だいたい、みんな、似たようなものを、多かれ少なかれ、抱えて生きているんだろう」


 アダムは、センの一挙手一投足から目を離さない。

 まるで、視線が張り付いたみたいに、

 まばたき一つせず、センの全てを、黙って睨みつけている。


 警戒心ではなかった。


 『惹きつけられている』と気づき、

 アダムは奥歯をかみしめる。


 ――センは、


「ああ、ダメだな。まただ。言いたいことが多すぎて、整理しきれなくなって、ぐちゃぐちゃになって、自分でも、今、自分が何をメインに話そうとしているのか、わからなくなっている。本当に、頭が悪いんだなって、こういう時、実感する」


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