64話 いつだって、『逃げていい理由』だけは無限にある。
64話 いつだって、『逃げていい理由』だけは無限にある。
「この空間が『精神〇時の部屋』化していないと、普通にマズい……ガチでそうなっていることを祈るしかない……か。ウゼェ状況だ。祈るしかないって閉塞状況は嫌いだ」
「好きな者はあまりいないのでは?」
「道理だぜ」
などといいながら、
センは、オメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトをにらみつける。
「1万……か……」
奥歯をギリっとかみしめて、
「クラクラするぜ……だが……」
センエースは、
壊れて、歪んで、くさっても、
しかし、
「それでも……叫び続けてやる……『降りてやらねぇ』と……バカみたいに、最後の最後まで……叫び続けてやらぁあああああ!!」
命の咆哮。
叫び続ける魂魄の華。
それを見て、
「ラジオ体操第一は終わった。それでは、ラジオ体操第二へと進もうか」
オメガシャドーは、そんなことをボソっとつぶやいた。
★
死闘だった。
オメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトを殺すたびに、センは、
オメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトの魂魄にがっついたが、
しかし、オメガレベル6000の壁はなかなか超えられない。
ステータスは常時同じだから、倒すのにかかる時間はほとんど変わらない。
もちろん、闘い続けていれば、しだいに、相手の動きが見えてくるので、
『倒すまでの時間』は討伐回数に反比例して短くなるが、
しかし、『ステータスの差』に変動はないため、
そこまで大幅に時間短縮ができるというわけではない。
一回の戦闘で、五秒そこら短縮できればいい方。
センの集中力も、だんだんと途切れてきた。
『オメガレベル6000』となったことで、
肉体的には大きく向上したが、
『集中力』というステータスは、それとはまた別モノ。
仮に握力が200あっても、『だから集中力も高い』というわけではないのと同じ。
筋力やスピードは、やり方しだいで、爆発的に伸ばすこともできるが、
根性や集中力は、『根気よく、時間をかけて、地獄を積む』という、
過酷かつ地味かつノロマな方法でなければ、なかなか伸ばせない。
「はぁ……はぁ……」
うつろな目で、センは虚空を睨みつけて、
「……え……うそ……だろ……ぇ……あと……9950体も殺さないといけないの……?」
オメガ真眼蟲賢王・ウルトラインセクトを50回ほど殺したところで、
センは、自分の現実と向き合い、普通に絶望する。
「いやいや……無理だろ……」
『根性』という特殊エンジンは、
『情熱』や『勢い』という『追い風』がある時なら、
誰のソレでも、それなりに元気よく稼働するのだが、
しかし、『根性エンジン』の真価が問われるのは、
最初の『情熱』や『勢い』を失い、停滞モードに入った時。
誰だって、『情熱』や『勢い』という追い風を背負っている時は、
そこそこ頑張ることができる。
他人の目からは『無茶』だと思える根性を通すことも出来なくはない。
しかし、たいていの者は、道半ばで、勢いを失ってしまう。
情熱を維持するのは難しい。
初心を見失い、足の疲ればかりが気になるようになって、
いつしか走るのをやめて失速。
ついには、歩くのすらやめて、その場に立ち止まる。
ゴールの遠さに嫌気がさして、
『逃げてもいい理由』を探しだす。
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