46話 残り物には福がある。


 46話 残り物には福がある。


「ここで死ぬのは完全な自己責任になります。というわけで、警告させていただきます。死にたくなければ、入ってはいけません。死ぬのがイヤだという方は、このままおかえりください」


 その発言に対して、踵を返すような者は、

 当然だが、ここにはいない。


 ここで帰るようなら、最初から、バロール杯という高位の武道大会に参加しようとはしていない。


「警告はさせていただきました。もはや、死んでも、文句は言えません。大事なことなので、もう一度いいます。死んでも、自己責任です。よろしいですね?」


 そう言うと、

 運営スタッフは、指をパチンとならした。


 すると、ダンジョンの入り口を封じていた扉がスゥと溶けた。


「それでは、二次予選スタートです!」


 合図に従い、30人の挑戦者が、ゾロゾロと、

 ダンジョンの中へと足を踏み入れていく。


(突破できる人数に制限がない……ということなら、俺(カモ)が狙われることはないだろう。『本選での組み合わせ』まで視野にいれた場合、他の連中の視点だと、俺(カス)は絶対に残しておいた方がいい)


 運よく一回戦であたることができれば、

 それは、もはや、フリーパスも同然。

 体力温存にもなるし、手の内を隠すことも可能。

 メリットだらけで、デメリットは一切ない。



(周囲の妨害を気にすることなく、ダンジョン攻略に集中できるのは悪くない状況……問題は、今の俺のステータスで攻略できるのかどうか……)



 などと考えながら、

 他の参加者の後ろについて、

 長い道を歩いていると、

 途中で、道が30本ほど別れていた。


(ピッタリ人数分、道がわかれている……これは……)


 などと考えつつ、様子をうかがっていると、

 先頭を歩いている参加者が、

 迷いなく、『テキトーに選んだ道』を進んだ。


 すると、その道の入り口が魔法の壁で封じられる。


(……一つの道につき、通れるのは一人のみ……って感じか……)


 センは、軽くストレッチをしながら、


(おそらく、『比較的楽な道』とか『いちばん困難な道』とかもあるんだろうなぁ……全部同じ難易度って線もありえるが……まあ、どっちにしろ、俺の『運レベル』を考えれば、中道をいくだろうから、大して問題はない。あー、よかった。運がよくもわるくもなくて)


 などと心の中で呟いている途中で、

 ふと、


(あ、でも、最近の俺の『運』は、普通に考えて最悪だよなぁ……人類全滅を100回ぐらい見届けるような不運は、なかなかのもの……いや、まあ、だからこそ、仮に、ここで『もっとも楽な道という可能性』があるのであれば、それを俺が引き当てるという『運の収束』が起こる可能性は非常に高いように思わなくも……いや、どうだろうなぁ……)


 などと、『考えたところでどうにもならないこと』を、グダグダつぶやている間に、セン以外の全員が道を選び終えていた。


「――『残り物には福がある』なんて言葉があるが……コレ、誰が言い始めたんだろうねぇ。残っているものを選んで福があったこととか、これまでの人生で、特になかったけどなぁ。むしろ、世の中ってのは、『最初に突っ走ったやつが、全部をかっさらう』ってイメージなんだが……」

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