107話 ああ、たぶんな。


 107話 ああ、たぶんな。


「陛下、ご心配なく。音声データは消えておりますが、しかし、私の心をかき消すことは不可能。陛下の言葉を忘れることなど、出来るはずがありません」


 晴れやかな顔で、

 そう宣言してから、


「このループを抜けたあかつきには、『陛下の言葉』と、その『ご活躍ぶり』を記した本を出版し、世界中に拡散する予定でございます。とりあえず、最初の目標は聖書を置き去りにすること。次の目標は――」


「久剣一那よ。貴様の王として命じる。俺の言葉を、全て忘れよ」


「前向きに善処する方向で検討します」


「まさかの完全否定?! この配下、全然、忠実じゃない!」


「目を閉じれば、今でも、頭の中で、あの日の言葉が鮮明に再生されます……『ここには、まだ、俺がいる』『背負ってやるよ。全員の命を、この背中で、引き受けてやる』『すべての絶望を殺してやる。すべての命の希望になってやる』」


「やめて、やめて! エグいほど恥ずい! そういう『ハイテンション補正』がかかったセリフを、あとでほじくり返されるのが、個人的には、一番キツい!」


「――『カズナ、俺はお前の王になるために生まれてきた』――」


「? あれ? 俺、そんな事、言った? ……いや、言ってないよね? あれ? もしかして、お前、別の世界線の記憶を持っていらっしゃる? ……いや、どの世界線であったとしても、俺が、そんなことを言うはずが――」


「王は、壁にドンッと手のひらを押しあてて、『カズナ、お前の命は俺のものだ。愛も心も全て捧げろ』そう言いながら、カズナの顎に手をかけて、クイっと――」


「あ、これ、妄想だ! それも、夢女子系の、すごく痛い妄想だ! ウソだろ?! お前、まさか、そのクソ妄想を本にまとめて、聖書を置き去りにするレベルで、世界にバラまくつもりか?! 正気の沙汰じゃない!」


「狂気の沙汰ほど面白い」


「その狂い方はガチで怖いヤツなんだよ! てか、なに、クールなノリで、俺のスタイルに合わせてきてんの?!」


「これだけ濃い時間を共に過ごしていれば、スタイルを把握することなど容易でございます、陛下」


「ということは、俺が『嫌がること』も、当然理解できているよね? 頼むから、『俺の言葉をまとめた本を出す』なんて、そんなイカれたことはしないでね?」


「前向きに――」


「検討するんじゃねぇ! なぜ、そんなにも頑(かたく)な?!」


 おだやか……

 とは言えないものの、

 しかし、ゆっくりとした時間が流れていく。


 カズナの『狂気』には、

 軽く恐怖を覚えたものの、

 しかし、『冗談だろう』と、軽く流すことで、

 精神の安定をはかるセン。


 そんなセンに、

 カズナは、目を細めて、



「……少しはリラックスできましたか、陛下?」



「……」


 カズナの優しい質問に対し、

 センは、数秒だけ悩んでから、


「ああ、たぶんな」


 ――メンバーの性質が濃すぎるせいで、

 いろいろと、グダグダ・ゴチャゴチャとはしたものの、

 温泉、マッサージ、サウナ、水風呂、全身運動、コーヒーブレイクと、

 『肉体&精神』にとっての『ご褒美』が連発したことで、

 それなりに、リラックスすることはできた。


 彼女たちが、必死になって、

 『労(いた)わろうと頑張ってくれた』ということが、

 純粋に嬉しかったりもした。

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