72話 壊れたウムル=ラト。

 72話 壊れたウムル=ラト。



『――【ウムル=ラト】のノーダメージ撃破を確認。【壊れたウムル=ラト】を召喚します』



 奇妙な音声が脳内に響いた。

 その直後、

 奇怪なジオメトリが空中に描かれて、

 その向こうから、


「……プハァ」


 禍々しいオーラに包まれたウムル=ラトが出現した。



「クシュー、コホー」



 完全に飛んでいる目。

 異様な雰囲気。


 明らかに『壊れている』と、一目で理解できた。



「ギャガヤガヤガァアアア!!」



 意味もなく叫び散らかすと、

 ウムルは、


「ビャァアアッ!!」


 センに向かってとびかかってきた。


 獣の跳躍。

 戦闘ではなく狩猟。


「どわぁ!」


 ギリギリのところで回避するが、

 しかし、ウムルは、すぐに姿勢を切り替えて、


「ギギギャ!」


 体を回転させながら、

 センを削り取ろうと襲い掛かってきた。


 その結果、


「ぐぁああああ!!」


 あっさりと左腕を失ったセン。


(ぐ……えぐい、えぐい……あと少し反応が遅れていたら……顔半分を持っていかれていた……)


 完全にヤバいと理解したセンは、

 いったん、距離を取ろうと、

 瞬間移動による全力緊急回避をこころみたが、



「――こ、このくそぼけ! 次元ロックを張ってやがる!」



 瞬間移動が使えなくなっていた。


(ま、マズいっ! ……どうする……ヤバい……っ)


 先ほどの『まともウムル戦』で、ノーダメ―ジ記録を出したセンだが、

 しかし、『楽勝だったか』というと、それはまた少し違う。


 『難易度の高いゲーム』で『ノーダメージ記録』を出した。

 というのが、先ほどの状況。

 つまり、肉体的ダメージはなくとも、

 普通に『肉体的な疲労』と『精神的な疲労』はたまっている。


 ウムル戦が始まる前から、

 何度も『世界の終わり』を経験したことにより、

 体力も精神も、すでにボロボロになっている。


(このウムル……強すぎる……仮に、蓮手を1とした場合……このウムルは、100を余裕で超えていく……今の俺では、勝てない……くそっ……なんだ、この糞インフレっ!)


 決断は早かった。


「もったいねぇなぁ、ちくしょう! まだ2日目なのによぉ!」


 叫びながら、センは、

 懐に忍ばせておいた銀のカギを手にとり、



(――『ノーダメでウムルを殺してはいけません』……よくわかったよ。脳に刻ませてもらう。二度と、同じ過ちはおかさねぇ)


 心の中で誓ってから、

 銀のカギを天に掲げ、




「――『俺は、まだ頑張れる』!!」




 そう叫ぶと、銀のカギが強く、強く、発光しだした。

 光が強くなるにつれて、センの意識が遠くなっていく。


 結果、次元ロックをものともせず、

 銀のカギは、時間の壁を超えていく。




 ★




 ――17日の朝。


「……くそったれが……」


 目覚めると同時に吐き捨てる。


「うっっぜぇなぁ、ド畜生がぁ……また最初から……また、黒木に同じ説明するのか……」


 頭を抱えて、タメ息をつき、


「地獄だな……」


 うなだれていると、

 そこで、電話が鳴った。


 相手は、当然、カズナ。


『陛下……なぜ、急にタイムリープを』


「……ぁ、ああ、ちょっと色々あってな……それより、また、黒木と交渉するから、セッティングたのむ…………はぁぁ…………」


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