18話 この絶望は、あちらのお客様からです。


 18話 この絶望は、あちらのお客様からです。


「そのナイフは『精神負荷と引き換えに魔力量が上がる』という性質を持つ。基本的には、どんな時でも『俺に流れる』ようにしているが、その辺の調節は自由自在」


 センは、ゾーヤに対して、丁寧に、図虚空の説明をしていく。


「ちなみに、今は、俺にベクトルを向けている。精神的負荷というのが、どういうものなのか、知りたいなら、教えてやるけど?」


「……」


 そこで、ゾーヤは、ナバイアに視線を向ける。

 ナバイアは、空軍将校経験者の屈強な白人男性で、

 彼も、ゾーヤほどじゃないか、根性はかなりキマっている。


 この状況で行動を起こせるだけの根性があり、

 肉体的にも、精神的にも優れた元超位軍人。


 そんな彼が、今、白目をむき、泡を吹いてぶっ倒れている。


「……調節が自由自在だというのが本当なら、その精神的負荷というのを1パーセントぐらいに抑えることも可能かしら?」


「ああ、出来るぞ」


「では、それで、経験させてもらっていい?」


「了解。――図虚空(マスター)、聞いていただろ? 『1パーセントの精神負荷』を、そちらのオールドレディに」


 命令に従い、

 図虚空は、ゾーヤに魔力を流し込む。

 それと同時、ゾーヤの全身を、重たい絶望が包み込む。


「うううっ……っっ!!!」


 電気ショックでもくらったみたいに、

 イスから転げ落ちながら、

 図虚空を投げ捨てるゾーヤ。


「はぁ、はぁ、はぁ……っっ」


 真っ青な顔で、胸をかきむしりながら、

 冷や汗ダラダラの顔で、


「……今ので……1パーセント……? 本当に……?」


「ああ。ちなみに言っておくと、『ウムルなんとか』ってGOOをSATUGAIした時は、230%まで引き上げた。そのぐらいしないと勝てなかった。いやぁ、あいつは本当に強かったよ」


「……」



 いろいろあった結果、

 この場にいる全員が、

 『センエース』の異常性に気づきだす。


 ゾーヤは、心の中で、


(久剣一那を投げ飛ばしてみせた技量……異次元レベルの精神力……そして、なにより、言葉の端々から伝わってくる、病的とも思える高潔さ……なるほど……傅(かしず)きたくなる……この少年は……間違いなく王の器……『命』の頂点に立つべき存在)


 理解に届くと、

 ゾーヤは、紅院正義に視線を向けた。


 ゾーヤの視線に気づくと、正義は、ニィと、

 意味深に微笑んでから、

 その視線をセンに向けて、




「――我々は、か弱い存在です」




 それまでとは違い、

 際立って礼儀正しく、

 謹んで、


「残念ながら『合理と向き合うだけの器量』は持ち合わせていない、ひどく不完全な命。野放しのままだと、我々は、今後も、過ちを犯し続けるでしょう」


 そう言いながら、

 センの前で、片膝をついて、

 うやうやしく、頭を垂れて、


「正しい指導者が必要です。……どうか、我々の王として、我々を管理していただきたい」


 などと、言い出した紅院正義に対し、

 センは、


「……」


 『やられた』という顔で、言葉につまる。


 そんなセンに、正義(まさよし)は、


「我々を導けるのは、あなたしかいない。他の者では絶対に不可能です」


 たたみかけていく。

 そんな正義の迫力に、センは、『逃がさない』という強い気概を感じた。


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