16話 落ち着け、おネーちゃん。

 16話 落ち着け、おネーちゃん。


 ズガバンッ!!


 と、破裂音が響いて、

 その直後、

 穴のあいた天井から、拳銃を持った女が降ってきた。


 ――彼女『久剣(くつるぎ)一那(かずな)』は、

 ダイナミックに登場すると同時、

 センの側頭部に拳銃の銃口を突き付けながら、


「もう我慢できない。間違いなくやりすぎ。ナイフを捨てろ。逆らえば容赦なく撃つ」


「……お前の命令を聞かなければいけない理由が、俺にはなさすぎる」


「いや、あるだろ。生殺与奪の権限は、銃口を頭に突き付けているこちらにあるんだから」


「愚か極まる。俺がその気になれば『お前が引き金を引くまでのコンマ数秒』の間に、俺は、お前を86000回ほど殺せる」


「……はちま……え?」


「落ち着け、おネーちゃん。ただの冗談だ」


「……ど、どれだけ大人をバカにすれば気がすむんだ……このクソガキ……」


「子供にバカにされない『ちゃんとした大人』に『なれなかった自分自身を恥じるべき』であって、俺に文句をたれるのは筋違いだ」


「……調子にのるのもいい加減にしろ、閃壱番。たまたま『オーパーツ』を手に入れただけのクソガキが、偉そうに、上からモノをほざくな。滑稽だ」


「俺から言わせれば、お前らの方が万倍滑稽だがな」


 その言葉を受けて、完全にブチギレたカズナは、

 拳銃をその場に投げ捨てて、


「クソガキ、ナイフを捨てて、素手でかかってこい。もし『そんな勇気はない』というのなら、地に手をつけて謝罪しろ」


 先ほどまでのセンと同じくらい血走った目でセンをにらみつけるカズナ。


 センは、わずかも考えることなく、

 机の上にナイフを置くと、

 カズナと向き合い、

 右手で『くいくいっ』と手招きをする。


 その動作が合図となった。

 カズナは、一瞬で、センの懐にもぐりこみ、

 螺旋のダイナミクスを徹底させて、

 荒ぶる竜巻のように、

 センを、からめとり、地面にたたきつけようとした。


 ――けれど、


「無駄に力入りすぎ。重心、ズレすぎ。心揺れすぎ。8点だ。――『1000点満点中』のな」


 センの言葉が、

 彼女の耳に届いている間、

 彼女は、ずっと、宙にいた。


 『どうして、こうなったのか』という純粋な不可思議と対話している余裕はなかった。


 気づけば、カズナは、秋風に吹かれた枯れ葉のように、

 その全身で、宙に綺麗な円を描いていた。


 そして、コンマ数秒の後に、

 ドスンッ!

 と、両足で地面に着地する。


 自由意志で姿勢を制御したのではない。

 そんな気は微塵もなかった。


 そんな余裕などなかった。


 ――つまりは、綺麗に一回転させられたのだ、

 と、そこで、ようやく理解に到る。


「なっ……あ……」


 理解できたのは、あくまでも『自分が一回転した』という現象の部分のみで、

 『なぜそうなったのか』という根本の部分に関しては、

 いまだに、まったく無理解のまま。


「ど……どうして……どういう……なんで……」


 混乱している彼女に、

 センは、


「小マシなナイフを一本装備しただけで、GOOを殺せるわけねぇだろ。俺をナメるのも大概にしておけ、バカ女」


 そう言い捨てる。

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