15話 笑えよ、マサヨシ。

 15話 笑えよ、マサヨシ。


「俺は俺の信念と心中する。その結果、悲惨な末路をたどったとしても後悔……はするだろうが、しかし、『結論』は絶対に変えない」


 その発言を受けて、ゾーヤは、心の中で、


(……なるほど。紅院正義の言う通り、この少年の核には、確かに王の器量がある……)


 と、そこで、紅院正義が、


「――今回の件に関する全ての罪を背負わせてもらう。私の命を払ってもかまわない。だから、どうか、許してくれないか」


 と、『散らかった場』を『整えよう』と、

 自分の命を差し出す提案をしてきた。


 その行動に対し、センは、


「身勝手に10人のガキを殺そうとした罪が、てめぇ一人の命で払えるわけねぇだろ。どこまでズレてんだ、てめぇ」


 紅院正義の胸倉をつかみながら、

 バキバキに血走った目で睨みつけ、


「責任の重さや仕事量だけで見れば、もしかしたら、てめぇには、『10億人分』の価値があるのかもしれねぇが、『命の重さ』は、一人分でしかねぇ。『そこを忘れているのが問題だ』という話をしているのに、てめぇ、まるで聞いてねぇじゃねぇか」


「……命の重さ、か……よくある命題だが……命に重さがあるなら、その『秤(はかり)』はなんなのかな?」


「俺の主観だ。俺の独断と偏見が命の相場になる。非常にシンプルで合理的だろ?」


「……」


「どうした? わらえよ、マサヨシ。俺は、今、とても、とても、面白いことを言ったんだ。ウケてくれねぇと、スベったみたいになるだろうが」


「ギャグだったのかね?」


「冗談とは言ってねぇ。『プロ野球選手になる』という『野球少年の宣言』は、たいがいの大人に笑われるだろ? その感じのアレだ。『人に笑われるぐらい』の目標じゃないと、立てた気にならないという、俺の感情の問題さ」


「……『自身が命の秤になる』……その言葉の意味を……君は、正しく理解しているのか? それは、『すべての命を背負う』という意味だぞ」


「そこまでぶっ飛ぶ気はねぇ。俺は『モノサシ』になるだけさ。お前らに『俺のモノサシ』を使わせる司令塔……の『御意見番』くらいには、『週一くらいのペース』でなってやらなくも、なくはない今日この頃だが、それ以上の仕事は全力で拒絶する。俺は『俺の理不尽』を通すだけ。それ以上でもそれ以下でもない」


「最低の暴君だな」


「違うな。最低の傍観者さ」


 そんなセンの発言に対し、

 紅院は、


「ふっ……」


 と、『こぼれてしまった笑み』を浮かべてから、


「仮にここで、『君のモノサシを採用する気はない』……と『拒絶の意』を示したら、私は、どうなるのかね?」


「決まっている」


 そう言いながら、

 センは、紅院の首にナイフの切っ先を突き付けて、


「その喉切り裂いて、二度と無駄口叩けぬようにしてやる」


「……君は、映画の引用が好きなようだね」


「そんな高尚なもんじゃねぇ。ただ、テンプレを垂れ流しているだけだ。ようするに、ただの病気だよ」


 などと、無意味な会話をしていると、

 そこで、


 ズガバンッ!!


 と、破裂音が響いて、

 その直後、

 穴のあいた天上から、拳銃を持った女が降ってきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る