55話 小切手。

 55話 小切手。


(きっと、取り繕うと思えば、色々な言葉で、装飾することはできる……けど、その行動に何の意味があるってんだ。所詮は、全部、ただの後付け。くだらない言い訳でしかない)


 頭の中で、

 色々と、言葉を紡いでみようとして、

 けど、ダメだったので、


「ガンコなところが嫌いだ。我が強すぎるところとか、プライドが高すぎるところとか、そういう部分にも、同族嫌悪を覚える。正直、吐き気がする。髪型とか、スタイルとか、そういうのも、全部、全部、俺の好みじゃない……」


 その前提を踏まえた上で、

 センは思う。


(……けど、俺は、きっと……今後、また、同じように、茶柱が、目の前で苦しんでいたら、みっともなく、バカみたいに、アホらしく、『ヒーローのまねごと』をするだろう……)


 確信があった。

 絶対にゆるぎない自信。


 だけど、その覚悟を、『他者にも分かる言葉』に『変換する言語力』を持っていないため、


「あいつの考え方が嫌いだ。ゴリゴリにボケてくる感じも嫌いだ。正直、あいつのボケは、俺のフィーリングに合っていない。俺は、ああいう、シュール系が苦手なんだ。単純に何を言っているかわからない時も多い。『政治家の娘』っていう、バックボーンに至っては最悪だ。『彼女の父親が総理大臣』……って、いやいや、普通に考えてイヤだろ。『彼女の父親』の職業でいえば、地方公務員か、サラリーマンがベストだ。あと――」


「もういい」


 そこで、城西は、センの言葉をさえぎって、


「君が、罪華さんの事を嫌っているということはよくわかった」


 そう前を置いてから、


「そこまで嫌っている相手と別れることは、なんの苦でもないだろう? 今、ここで、電話でもメールでも、なんでもいいから、彼女に分かれると告げてくれ。それで、終わりにしよう。俺の要求に応じてくれるなら――」


 そこで、城西は、懐から小切手を取り出して、

 サラサラと『¥30000000円也』と書き込むと、

 日付もしっかりと記して、

 かつ、裏面に『表記金額を閃壱番様へお支払いください』と書き込む。


 その小切手に、手数料分の千円を添えて、センに差し出し、


「これと学生証と印鑑を持って、時空ヶ丘銀行に行け。窓口ではなく、裏に回って、山下か、谷川に繋いでもらえば、滞りなく、スムーズに、その場で換金してくれるだろう」


「生まれて初めてナマで小切手を切っているところを見たよ……」


 呆れ交じりにそう言いつつ、

 センは、小切手を受け取って、

 0の数を確認する。


「いち、じゅう、ひゃく……おいおい、マジか、お前……3000万て……」


「今の俺に使える額は少ないから、その辺が限界だ。大学生になれば、もう少し、大きく動かせるようになるんだが……ウチの親は、金に関して厳しくてな。ガキの内から大金を持っていても意味がないといって、あまり小遣いをくれないんだ」


「……嫌味で言っているなら、まだかわいげがあるんだが、そんなマジの顔で言われたら、もう、何も言えねぇなぁ……」

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