38話 センエースごときじゃセンエースは止められない。

 38話 センエースごときじゃセンエースは止められない。


 『センの心のヤバイやつ』の暴走が止まらず、

 さすがのセンも、頭がクラクラしてきた。

 全身が悲鳴を上げている。


 ――と、その時、


「――顕現せよ――」


 センの背後に出現したウムルは、

 胸の前で両腕を交差させながら、

 両手の指でパチンと指を鳴らす。


 その結果、空間に六本の剣が召喚される。


 六本すべて、黒炎を纏っており、異質なオーラを放っている。

 ――宙に浮かぶ黒炎刀は、


「踊れ……黒零の剣翼……」


 ウムルの命令に従い、六本の剣が一斉に、センへと襲いかかる。

 超高速で飛び交う刃の嵐。

 残像を量産する剣の弾幕。


 そんな、漆黒に染まる暴力の雨に対し、

 センは、ナイフの刃を丁寧に合わせていく。


 キキキキキキンッッ!!


 と、連続する『金属のかちあう音』が響きわたる。

 とんでもない反応速度で、

 八方を飛び交う全ての刃に、センは見事な対応を見せる。


(ぬぉおぉ……ウムルのやつ、想像していたよりも、だいぶ強いぃぃ……このままだと、まだ、魔力が足りない気がしないでもない……で、でも、もう、さすがに限界な気がする……これ以上やったら、完全に頭がおかしくなる気がする。だから、無難に、今のままで、どうにかやりくりした方が、結果的には合理的な気が――)


 と、『センエースの中の冷静な部分』が、

 ブツブツと言い訳をしている途中で、

 『センの心のヤバイやつ』は、

 勝手に、




「図虚空! 倍プッシュだ! 遠慮はいらねぇ! 狂気の沙汰ほど面白い! 不合理と不条理の先にしか、本当の合理は待ってねぇ! そうだろう?!」




 ワケの分からん戯言を叫びながら、

 センは、自分の中へと、魔力を注ぎ込んでいく。


(いやいやいや! やめて、やめて!)


 心の中では悲鳴の嵐。

 しかし、センは止まらない。


 ――結果、

 センの目はバッキバキになり、

 全身がブルブルと痙攣し、


「見える! 俺にも、お前の『道』が見える!!」


 そう叫びながら、

 センは身を低くして、

 極端な前傾姿勢のまま、

 ダダダダッっと、豪速で、ウムルとの距離を殺す。


 飛び交う『黒零の刃』を置き去りにして、

 ウムルの懐に飛び込むと、

 迷わず、

 ナイフの切っ先を、

 ウムルに向けて、


「――虚空閃光のキルクルス――」


 尋常ではなく重たい魂魄を乗せた強大な一撃を放った。


 深き死の電流をまとった極邪の波動がウムルを襲う。

 強大なエネルギーの奔流。

 図虚空の中に刻まれた『天極邪気』を限界以上に昇華させた、渾身の一撃。


 それを受けたウムルは、


「うぶぅおぇえええええっっ!!」


 豪快に吐しゃ物をまき散らす。


 解放された図虚空の邪は、

 ウムル・ラトの魂魄に『歪んだ傷』をつける。


 ウムルの体表で、死の電流がバチバチと音をたてた。

 直後、ウムルの全身を襲う重度の倦怠感――


「な……なんだ、このデバフは……重たい……暗い……うぇっ……」


 体がフラつく。

 脳がピヨつく。


 そんなウムルの懐に飛び込み、

 センは、


「――豪魔一閃――」


 豪速の斬撃でもって、

 ウムルの全てを、

 たたっ斬ろうとして、

 しかし、


「――うぅぬっっ!!」


 寸でのところで、ウムルは、ピヨリ状態から解放され、

 グイっと体軸をズラす。

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