37話 ちょっと何言っているかわかんない。

 37話 ちょっと何言っているかわかんない。



「――いくぞ、ウムル=ラト。殺してやる」



 そんなセンの宣言を受けて、

 ウムルは、


「……ふん」


 鼻で笑ってから、静かに武を構える。


「調子に乗るな……貴様の戦闘力は確かに目を見張るものがある。そのナイフの異常性も認める。だが、さすがに、その『脆弱な器』に包まれた状態では勝てんよ。いや、仮に、『まだ見ぬ本来の姿』であったとしても、私を超えることなど出来るはずがない」


 グググっと、オーラの圧力を底上げして、


「私は、グレートオールドワンのハイエンド。偉大なる神の導きを受けた者。ウムル=ラト」


 名乗りを上げた上で、


「貴様の核となる部分が、どれだけ高名な武神のソレか知らんが、さすがに、アウターゴッドの領域にはないだろう。私を殺せるのは外なる神々のみ。つまり、貴様では不可能」



「はっ! 可能か不可能かで、俺を測っている時点でズレているってことを教えてやる!」



「……? ん? んん? そ、それは、すなわち、どういう意味だ?」


「気にするな。ノリで言っただけだから。自分でも、ちょっと何言っているか分かんねぇ」


 などと、とんでもない前を置いてから、

 続けて、


「俺の発言に対しては、基本的に、『言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ!』とでも思っていればいい」


「……ワケのわからんヤツだな」


「まれによく言われるよ」


 そこで、

 世界は、一瞬、シンとした張りのある静寂に包まれた。


 センエースと、ウムル=ラト。

 両者は、互いに、世界を測り合う。


 全部で6秒。


 濃厚な『1/10分』が過ぎた直後から、

 『探り合い』にかけた時間の清算が始まる。


 最初に動いたのはウムル。

 亜空間へと溶けたウムルの姿を目で追うことなく、

 センはゆっくりと目を閉じた。


 感覚を研ぎ澄ます。

 六感がビンビンに稼働する。


 ナイフから体内へと供給される魔力が、

 センの感度を凶悪に引き上げる。


 『図虚空』とリンクすればするほど、

 センを襲う『不快感のクオリティ』は爆上がりするが、


(まだ行ける……まだ余裕……)


 常人ならとっくに白目をむいて気絶をしているところだが、

 しかし、センは、その状況を超えて、

 さらに、多くの魔力を、自分の中へと流し込む。


(まだ行ける……まだ……いや、もうムリじゃね? 頭、吹っ飛びそうですけど? 胃の中のゲロが、全身の血管を這いずり回っているような、そんな錯覚に陥っているんですけど……あの、センさん、もうやめません? もう、さすがに止めません? あの、なんで、まだ、『ガンガンいったるでぇ』みたいな感じ? 物心がつく前から思っていたけど、お前、ほんと、頭おかしいって……もういいって!)


 『自分の中の自分』と『心の中』でケンカをする、

 という、もう、ほんと、さっぱり意味の分からない奇行。


(おいおい、ほんと、もういい! マジで止まれ! どう考えても、もういいだろ! なんで、まだやる感じ?! マジで、もういい……も、ちょっ、マジで……お、お前、ほんと、キ〇ガイだな!)


 『センの心のヤバイやつ』の暴走が止まらず、

 さすがのセンも、頭がクラクラしてきた。

 全身が悲鳴を上げている。


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