18話 不屈の魂魄。

 18話 不屈の魂魄。


「もし、俺が不老不死だったら、その選択肢も視野にいれるが、俺は、100年前後で死ぬ。となれば、考えるべきは、100年以内にお前を殺す方法を見つけるか、もしくは、寿命を延ばす方法を見つけるか。現状、後者に着手するのは難しい。となれば、必死になって前者を追求する方が合理的」


 何も考えずに脊髄反射で『あきらめない』とわめいているのではない。

 ちゃんと、すべての前提を精査し、正面から絶望と向き合った上で、

 『それでも、あきらめてやるものか』と最後までもがき続ける。


 『極端な絶望』の『打破』を、

 『できたらいいな』と夢見るのではなく、

 『明確な目標』に据えることが出来る気概。


 それこそが、

 センエースが有するプラチナスペシャル。

 ――『不屈の魂魄』――


 どのような状況に追い込まれようと、

 決してくすむことのない、

 全世界が待ち望んだ、この上ない希望。


「ふむ。それで? 100年以内に私を殺せる手段は見つかりそうかな?」


「そう簡単に見つかったら苦労しねぇだろ! バカか! 俺の脆弱さと、お前の強さを、ナメんなよ! カスが!」


「けなされているのかな? それとも、褒められているのかな?」


「どっちでもいいわ、そんなもん! つぅか、結果、ただの自虐だよ、ボケが!」


 どうでもいいことを口にしつつも、

 頭の中は、グルグルと高速回転している。


 こういう瞬間だけは、

 かの有名な変態『田中トウシ』にも負けない速度で回転する脳ミソ。


 純粋な演算速度では、一生勝てる気がしないが、

 しかし、命の瀬戸際で瞬く光の輝度だけは、

 わずかたりとも負ける気がしない。


 ――と、そこで、

 センは、スっと、

 正統派の武を構えた。


 特殊な構えではなく、

 誰が見ても一目で『絶賛戦闘中』だと理解できる、

 パーフェクトなファイティングポーズ。


 それを見たウムルは、


「美しい武だ」


 惚れ惚れしながらそうつぶやき、

 自身も、最上のファイティングポーズをとる。


 数秒の静寂。

 夜の静けさを相まって、

 世界がイタズラにシンと黙る。


 正確な7秒が経過したタイミングで、

 ウムルが世界に溶けた。

 空間を移動して、

 明確な有利を奪い取る。


 ソっと、センは目を閉じた。

 全身の感覚を研ぎ澄ませる。

 空気の輪郭を知る。

 世界と一つになる。

 調和の果てに、

 センは、


「どりゃぁっっ!!」


 ウムルが死角から出現するコンマ数秒前に、

 予備動作を開始し、

 その勢いのまま、

 『異空間からとびだしてきたウムル』の下顎に、

 アッパースタイルの掌底打ちを放つ。


 物理ダメージではなく、衝撃と振動を求めた一手。


 モロにくらったウムルは、

 一瞬、頭がグワングワンと揺れたが、


「……くく……いくらなんでも、筋力が足りてなさすぎるな」


 すぐに体勢を立て直すと、

 そのまま、センの顔面めがけて、拳を叩き込む。

 その拳を、

 センは、鮮やかに片手でいなし、

 グンと、ウムルの懐にもぐりこむと、

 グイっと胸倉をつかみ、

 ギュウギュっと、軸足に魂を込めて、



「ふんばらだっしゃぁあああああっっ!!」

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