17話 コズミックホラー。

 17話 コズミックホラー。


 ウムルは、ユラリと、妖艶に、

 静かな武を構え、


「とりあえず、まずは、手合わせ願おうか」


 そう言うと同時、

 ウムルの姿が、センの視界から消えた。




 ――『その理解』が、

 センのインパルスを強烈に刺激する。

 際限なく沸騰する。

 限界を超えて、命が煌めく!




「どっこいっしょぉ!!」




 右ナナメ後ろ。

 完全なる死角から拳を突き出してきたウムル。

 そんな豪速の不意打ちに対し、

 センは、100%の精度で合わせてみせた。

 限りなく最小の動き。

 半身で回避しつつ、ウムルの腕を両手でつかる、

 と同時に、人体の限界を超えた速度で、

 腰をギュンッッと回転させて、



「ぬぅおっ!」



 思いっきり、地面にたたきつける!

 『今のセン』の十八番(おはこ)!

 地球を鈍器にするカウンター。


 ――魂ごとすりつぶす勢いで背負い投げを決めたセンだったが、

 しかし、


「……狂気的な戦闘力だ。貴様の武は、コズミックホラーと言ってもいい次元」


 ダメージが入っていないわけではない。

 しかし、『しゃべれなくなるほどのダメージ』ではなかった。


 また、ウムルはセンの視界から消える。

 センの足元からスっと消えて、

 十メートルほど離れた場所から出てくると、

 パッパッと土ボコリを払って、


「体力と物理耐性には自信があるのでね。そうそうは死なんよ」


「……」


「貴様の『さっきの投げ技』を基準にするならば……そうだな……10秒に一回のペースで23万年ほど、休みなく、私を投げ続ければ……体力自慢の私でも、まあ、死ぬかな」


「……」


「嘘だと思うなら、ためしてみるかね? 『本気で挑戦する』というのであれば、付き合ってあげてもかまわないよ」


「やるわけねぇだろ」


「おや? あきらめるのかな?」


「いや、あきらめるとかの話じゃねぇんだよ。俺が今、やるべきことは、現実的に、てめぇを殺す方法を考えることであって、23万年かけて、お前を背負い投げし続けることじゃねぇ」


 勘違いしてはいけないことが一つ。

 『あきらめない』と『叫び続けること』は、

 センエースの『一要素』であって『全て』ではない。


 『あきらめない』と叫び続ける『だけ』ならば、

 そこらの『発狂したジャンキー』にも出来なくはない。


 『何も積んでいない怠け者』でも、

 『何も考えていないただのバカ』でも、

 『あきらめない』と叫び続ける『だけ』なら、

 『最低限の根性』と『切羽詰まった状況』、

 という前提さえつめれば不可能じゃない。


 センエースを語る上で、最も重要なのは、

 『どうすれば、この閉塞した状況を打破できるか』と、

 最後の最後まで、

 『自分が持つすべてのスキルと覚悟』を照らし合わせた上で、

 『MAXの熱量を保ちながら考え続けることができる』、

 という点。

 それこそが、センエースに刻まれた信念。


「もし、俺が不老不死だったら、その選択肢も視野にいれるが、俺は、100年前後で死ぬ。となれば、考えるべきは、100年以内にお前を殺す方法を見つけるか、もしくは、寿命を延ばす方法を見つけるか。現状、後者に着手するのは難しい。となれば、必死になって前者を追求する方が合理的」

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