85話 崩壊した信頼関係。

 85話 崩壊した信頼関係。


 トコたちは、自分たちの報告を、上の人間が信じるとは思っていなかった。

 だから、報告書には、話を『逆盛り』する勢いで、かなり控えめに書いた。


 実際のところ、センは、ロイガーを、ほぼ一瞬で殺してしまったが、

 報告書には、

 『長時間の戦闘を経て、苦労の末に倒した』

 みたいな感じで嘘を書いた。


(目の前で見とったあたしらでさえ、何がなんやらサッパリわからん状態で、『ゴリゴリに疑っとる人間』を説得することなんて出来るわけがない……)


 『携帯ドラゴンと契約できた者』は、

 『世界の中核』たる『300人委員会』の中でも、

 かなり上位の権限を持てるようになる。


 その権限をフルで活用し、

 どうにか、『閃の伝説』を『対処すべき案件』として押し通したが、

 ぶっちゃけ、あの場にいなかった人間の中で、

 紅院たちの報告を『100%信じている者』など一人もいない。


 『信じようと努(つと)めている者』は一定数いるが、

 それだって、実のところは、単なる『願望の類』であり、

 心底から信じているというわけではない。


 ――と、そこで、カズナが、底冷えする声で、


「トコ。いうまでもないと思って、今までは、あえて言わないでおいたが……あたしは、カズミを見殺しにしたあんたを死んでも許さない」


 ここでハッキリと断言しておくが、

 カズナは、決して『トコの人間性』を嫌ってはいない。

 その証拠に、一美が死ぬ前までは仲良くやっていた。


 『年上のお姉さん』として、

 寛大かつ柔和な態度で、トコと接していた。

 彼女たちの間には、確かな信頼関係があったのだ。


 『自分にも他人にも厳しい一那』だが、

 トコの事は、

 『妹の友人として合格』と、

 その心根を認めていた。


 しかし、一美が死んでから、一那の精神は、

 『普通』におかしくなった。

 『トコの事を恨むのは筋違いだ』という論理的な思考が働く一方で、

 『妹を失った』という不条理に対し、

 燃えるような『理不尽極まりない怒り』が沸き上がってしまうのを、

 どうしても、抑えることが出来ないでいる。


 不安定な精神を抱えて、

 心も体もグラつきながら、

 『どうしたらいいのか』と自問を繰り返す日々。


「生身の私では、どうあがいても、あんたを殺すことは出来ない。だから、黙って引いているが、もし、可能だったなら、おそらく、私は、あんたを殺している」


「なんで、あたしだけ殺すねん。カズミを守ってやれんかったんは事実やけど、それ、全部、あたしだけの責任か?」


「誰も、あんただけとは言っていない。ミレーも、ツミカも、マナミも、可能なら、全員、殺してやりたい。あの子を見殺しにした全てを、私は心の底から恨んでいる」


「あ、そ。ほな、ええけど。いや、よくないけど」


 と、自分で自分の言葉に文句を言ってから、

 スゥと息を吸って、


「さっきも、センに言うたけどなぁ! こっちが必死になって止めたのに、まったく聞かんと、GOOの群れに飛び込んでいったんは、あんたの妹やからなぁ! おかげで、今、めっちゃ困っとる! 守ってやれんかったんは間違いない事実やけど、あいつに死なれてこっちが『死ぬほど困っとる』んも事実なんじゃい!!」


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