76話 この星の一等賞。

 76話 この星の一等賞。


「あんた、多角的にめんどくさいなぁ。普通、あたしぐらいカワイイ子が、『あーん』してあげる言うたら、『わーい』って両手を挙げて『喜んで、一生、ヒーローやりまーす』って永久英雄宣言をするもんやろ」


「その例文から感じるニュアンスは、英雄宣言っていうか、奴隷宣言だな……」


 しんどそうに、そうつぶやいてから、

 センは、周囲を見渡し、

 窓やドアを封鎖しているバトルメイドたちを観察する。


(……ヤバいな。あのメイド連中、そろいもそろって、全員、面構えが違う。『死んでも通さない』という気概をビシバシと感じる……)


 あそこまで、明確に『決意』をむき出しにされると、

 『気配察知能力にたけた武道の達人』でなくとも、

 『超やべぇ』というコトぐらいは気づける。


(……めんどくせぇなぁ……いろいろ……)


 心の中でつぶやきつつ、

 センは、トコとの話し合いを整理させるべく、

 茶菓子が並べられたテーブルにつく。


 ポジション的には、トコの正面。

 滞りなく会話が出来る状況が整うと、

 まず、トコが、


「交渉のテーブルについてくれたこと、まずは感謝する」


「……ものすごくムリヤリに着席させられただけなんだが」


「なんにせよ、や」


 言いながら、

 ソっとカップに口をつける。

 数秒の『穏やかな間』を置いてから、


「あたしの……というか、『人類』からの要求は一つ。『神話生物から、人類を守ってほしい』。その一点だけや。今後、それ以外は、なんもせんでええ。一生、遊んどいてくれてええ。たまに湧(わ)いてくる神話生物をバッチリ駆除してくれるんやったら、もう、望むがままに生きてくれてええ。そのための援助は全て任せぇ。富も名誉も地位も、家も、メシも、酒も、車も、女も、なにもかも、すべて、常に、最上級を用意させてもらう。あんたを『この星の王』と認める。これは、あたしが勝手に言うてる妄言やなくて、この星の最高権力者たちの総意」


 ちなみに、それは嘘だった。

 決して『総意』ではない。

 『この星の最高権力者たち』の大半は、

 『センエース』という存在に対してきわめて懐疑的。

 それが現状。


 しかし、『交渉』の場では、ウソも方便。


 それに、もし、センが了承し、

 実際に、世界を守りぬいた暁には、

 トコは、自分に出来る全てをセンにささげようと思っている。


 それは嘘ではない。


「人類は、あんたに服従する。あんたは、この世の全てを手に入れる」


 その話を聞いて、

 センが思ったことは一つ。


(……なんだろうな……普通に考えたら、とんでもなく魅力的な提案なんだろうが……なんで、こう……一ナノたりとも心が躍らないんだろう……)


 センの心は、スンと冷めていた。

 『別にいらねぇなぁ』と、心底から思った。


 そんなセンの心情を、

 トコは、めざとく察知する。


「そういう系には興味ないって顔やな」


「ある程度の金は必要だと思っている。病気になった時には金がいる。金がないとメシも食えない。だから、ある程度は必要だ。けど、必要以上に欲しいとは思わない。もっと言えば『施(ほどこ)し』を受けたいとは思わない。俺は俺の力で生きていきたい。――『俺は常に孤高』――これはギャグで言ってんじゃねぇ。俺なりの覚悟を端的にまとめた信念の表明。ナメてもらっちゃ困る」

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