10話 キ〇ガイクレーマーとの舌戦。

 10話 キ〇ガイクレーマーとの舌戦。


「このクラスに限り、さすがに、勝手が違いすぎるため、こっちで決めさせてもらった」


 挙茂の話を聞いた紅院は、

 そこで、キっと眉をひそめて、


「それは、差別では?」


 と、強い視線と声で言う。


 一瞬で、クラスの雰囲気が冷え込む。


 ――紅院は、自我が芽生えた瞬間から、

 ずっと、これまで、一貫して、

 気に入らないことに対しては、

 決して引かず、媚びず、省みず、

 自分の主張を、絶対に押し通してきた。


 たいていの教師は、彼女の怖さにビビり散らかし、

 すぐさま、謝罪と反省の姿勢を示すのだが、


 しかし、挙茂は、一ミリも動じることなく、


「差別ではない区別だ」


「……言い方の問題にしてごまかしているだけでは?」


「まったく違う。これは『なんでもかんでも平等にすればいいってものではない』という、至極当たり前の話だ。ハッキリ言うが、ウチのクラスだけ対応が異なるのは、お前たちのバックボーンが極めて異端だからだ。正式な名前を挙げるなら、紅院、薬宮、黒木、茶柱。お前たち4人がいるから、自由に組ませるべきではないという結論に至った」


「だから、それが差別だと――」


「所有資産が一定値を超えている家の子供と、一般家庭の子供では、誘拐されるリスクが段違い。それは統計学上の事実であり、定義上、事実という概念に、差別的要素は含まれない」


「……」


「ゆえに、お前たちは一緒の班になってもらう。お前たちの関係性を鑑みるに『自由にさせても、一緒に組むだろう』という話にもなったが、しかし、推測で判断すべき問題ではないだろうとして、事前にこちらで決めておくべきという結論にいたった。お前たちの警備体制に関しては、すでに、ご両親と話がついている。どこに行くかは、もちろん、自分達で決めていい。その点に関しては、ご両親も望まれていることだ。過剰な特別扱いは、人間形成に問題が生じる可能性があるため、出来る限り、普通の学生生活を送らせたいという考えは非常によくわかる。そこに関しては、俺も、まったくもって、同意見だ。正直な話をしよう。俺だって、本当は、班決めも含め、最初から最後まで、全部、お前らの意思で決めさせてやりたかった。しかし、どうしても引けないラインというのは存在する。きわめて単純な話をするなら、班をこっちで決めたからといって、お前たちの人格形成に問題が生じるか否かという実質的な――」


 と、そこまで聞いた時点で、

 紅院が、心底しんどそうな顔をして、


「もういい、もういい」


 ぶった切るように、

 そう言ってから、


「小学校や中学校の時みたいに『私たちが、メンドくさいから』って理由だけで、勝手に班を決められていたのであれば、それは違うだろうって思っただけで、ちゃんと考えた上での結論なら、何も文句を言うつもりはない。私はキ〇ガイクレーマーじゃない」


 と、そこで、トコが、アホを見る目で、


「……いや、ハタから見てる分には、完全なキチ〇イクレーマーやけど? 相手は、あの挙茂悟大先生やで? 今までの、残念教師どもみたいな、テキトーな対応はせぇへんやろ」



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