9話 時空ヶ丘名物『主体性遠足』!

 9話 時空ヶ丘名物『主体性遠足』!


 上から目線のトコのことも軽くピシャっと叱りつけてから、

 教壇に戻る挙茂。


 挙茂が、教師という職業に対して、

 『エグいほどガチである』ということは、

 学校中に認知されているため、


 K5のお嬢様が、雑にデコピンされたとしても、

 『挙茂ならしゃーない』ということで、

 親衛隊も、特に妙な動きを見せることはない。


 仮に『茶柱にデコピンを飛ばした』のが、

 挙茂以外の教師だった場合、

 親衛隊の面々は、迷わず、

 許しがたい『セクハラ&体罰』と認定していただろう。


 そうなった場合、

 何人かが、少年院を覚悟で『行動』を起こし、

 『そのセクハラ糞野郎の愛車が謎の大破を果たす』、

 ぐらいの事件は起きていただろう。



 ――ちなみに、茶柱本人も、

 口では、過激なことを言っていたが、

 しかし、それが、挙茂に対して、

 『一ミリも脅しにならない』ということは知っていた。


 というか、仮に、本気でイラっとしていた場合、

 口に出さずに、裏でやる。


 茶柱は、決していい子ではない。

 というか、かなりエグい子である。


 彼女を怒らせたら、本当に色々とマズい。

 だから、たいていの教師は、

 彼女の奇行を、見て見ぬふりをするのだ。


 しかし、

 挙茂だけは、いつだって、真正面からしかりつける。

 それも、『自分は他とは違う』というポーズ的な意味で叱るのではなく、

 普通に、ド直球に、真摯に、まっすぐに、

 『ダメなことはダメ』と、世の道理を叩き込んでくる。


 だから、茶柱も、挙茂に対してだけは、

 デコピンされようが、どうしようが、

 決して『ヤバい報復』をしようとはしない。




「はい、じゃあ、さっそく、朝のホームルームをはじめる」




 挙茂は、クラス全体を見渡しつつ、


「まずは、今度の『主体性遠足』について」


 時空ヶ丘名物、

 主体性遠足。


 一言で言えば、

 『自分たちで、遠足に行く場所を決める』というもの。


 場所を決めるだけではなく、

 行き先の責任者に電話をかけて許可を取ったり、

 行き先までのルートを確認したり、

 一通りの予算を立てたり、

 ――とにかく、すべてを自分たちで行うという、

 とにかく『面倒くさい行事』なのである。


 これだけ『生徒の数が多い学校』で、

 こんな面倒なことをするなど、

 絶対に大変なことになるのに……

 と、誰もが分かっているし、

 実際、毎年、かならず、何件かトラブルが起きて、

 死ぬほど七面倒なことになるのだが、

 なぜか、昔から、すたれることなく続いている、

 時空ヶ丘名物、主体性遠足。


 ちなみに、

 『ちゃんとした計画』が立てられなければ、

 『進級の必須単位』を一つ落とすことになる、

 という、異常に厳しいハードルが設置されており、

 実際、ここでテキトーをこいて留年する生徒が、

 必ず、毎年、何人かいる。



「いつもは、『班決めさえも生徒の主体性に丸投げ』というのが、この『主体性遠足』のスタイルなんだが、今年は……というか、このクラスに限り、さすがに、勝手が違いすぎるため、こっちで決めさせてもらった」



 その話を聞いた紅院が、

 キっと眉をひそめて、


「それは、差別では?」


 と、強い視線と声で言う。


 一瞬で、クラスの雰囲気が冷え込んだ。

 紅院美麗の怖さは常軌を逸している。

 胆力と目力がとにかくハンパではないのだ。

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