53話 禁止魔カードのターン。

 53話 禁止魔カードのターン。


「俺だって、必死になって磨いてきた。だから、『通じない』とは思わない……が、決定打が足りない。お前の強さに……俺は一歩、たりていない」


 あまりにも高いレベルにいる二人だからこそ、

 まっすぐな殴り合いだけで、理解できた。


 オメガは、『自分の方が下だ』と認めた上で、

 しかし、プライドをむき出しにして、

 胸を張り、


「とはいえ、俺も、体力と根性には自信がある。ここから、本気で粘れば……そうだな……100年くらいは生き延びることが出来るだろう。少なくとも、簡単にやられはしない」


 その発言に対し、

 センは、



「俺とお前は、それなりに拮抗しているから、削り切ろうとすると、確かに、そのぐらいはかかるかもな」



 異論をはさむことなく、頷いた。


 すでに、センも、オメガを認めている。


 オメガは強い。

 センには届かなかったというだけで、

 スペックも根性もハンパではない。


 だから、センは、丁寧に、


「実際のところ、俺がお前を削るのに『100年を必要とするかどうか』は要検証案件だが、少なくとも、『数時間や数日で終わる闘い』にはならないだろう。エゲつない泥試合になるのは確定」


 そんなセンの考察に対し、

 オメガは、頷いたうえで、


「だが、そんな、クソほど不毛な時間を積み重ねる気は毛頭ない」


 ハッキリとそう言い切った。

 その意見にはセンも同意だったので、

 否定することなく受け入れ、

 その上で、


「じゃあ、どうする?」


 と、純粋な疑問を投げかけてから、


「P型みたいに、禁止魔カードでも使ってみせるか?」


 そう言いつつ、

 センは、全身のオーラを充満させて、


「俺の学習能力は死んでいるわけじゃないからな。『まともにやったら俺に勝てない』と悟った『昨今の敵』が、何がしてくるかの想像はつく」


 そう前を置いてから、


「あいにくだが、禁止魔カードだけは、絶対に使わせないぞ。もし、お前が、アイテムボックスに手を伸ばそうとしたら、その瞬間に頭をつぶす」


 ゴキゴキと指の関節を鳴らしながら、


「俺たちが、『それなりに拮抗している』という状態を保てるのは、互いが互いの武に対して完全集中している間のみの話」


 『100年続く泥試合』という予測は、

 『ありえないレベルの高次集中』を、

 100年もの長い間、ずっと、お互い、

 『信じられない根性』だけで『保つことが可能だろう』、

 という推測の上に成り立っている。


「わずかでも気をそらすのは命取り。面倒な魔カードを使わせるスキなど与えない。お前の方が俺よりも上なら、そのスキを捻出することも不可能ではないだろうが、現状の力関係を考えれば、どうあがいても不可能」


 そう言いながら、殺意がほとばしる前傾姿勢で、


「アイテムボックスに手を伸ばす仕草だけではなく、怪しい行動すべてが対象だ。懐に手を入れる、でも、ズボンのポケットに手を伸ばすでも、なんでも」


 ギラつく目で、


「まっすぐの殴り合いなら、正面から受け止めてやらないでもないが、無粋なチートを使うつもりだってんなら、容赦なく、徹底して、叩き潰す。それが出来る程度には鍛えてきたつもりだ」


 オメガの一挙手一投足を監視する。

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