30話 我。

 30話 我。


「お前に、命をもてあそばれた連中は、全員、同じことを想っているだろうな。ちなみに、お前には罪があるけれど、いたぶられた連中には罪がないってところがミソだな。彼らは被害を受けただけ、お前は罰を受けているだけ。その違いこそが最も重要な点だ」


 そこで、クリミナは、

 奥歯をギリっとかみしめて、

 憤怒と殺意を込めた目で、センを睨みつけ、




「……罪だの、罰だの……悪だの、善だの……何様のつもりだ……私を裁く権利など……お前にはないだろう……」




「今のお前を裁いているのは、俺じゃない。お前自身の罪だ。ブラッディソウルゲートは、罪人以外が入った場合、何も起こらない」


「罪を犯したことのない人間などいるものか!! 命とは! 他者を殺し喰らい続ける業(ごう)だ!」


「正論だな。お前、たまに、正論を吐くよな。悪人のくせに生意気な。……まあ、でも『悪人だから正論を吐かない』なんてことも、実際のところはないんだよな。ははは」


 と、テキトーな言葉を並べてから、


「ブラッディソウルゲートの仕様を少しだけ説明すると、『悪いことをしたら、マイナス1』、『善行をしたら、プラス1』……みたいな感じで、例え、『マイナス10』の罪をおかしても、『プラス10』の償いを成したのであれば、罪人ではないと判断される。ラストのベ〇ータが、ド〇ゴンボールで生き返ったみたいな感じのアレだな」


「……べじ……はぁ?」


 『さっぱり、何のことかわからない』という顔をしているクリミアに、

 センは、説明することもなく、

 たんたんと、しゅくしゅくと、

 ゲートの解説のみを続ける。


「ちなみに、善行か悪行かの判断は、俺の中に在る『基準』で決まる。あ、もう一つちなみに言っておくと、『マイナス無限』の悪行はあるが、『プラス無限』の善行は存在しない」


 その発言に対する理解はできたようで、

 クリミアは、まっすぐに、センを睨みつけて、


「……善悪など……この世に存在しない……」


 本気の言葉をぶつける。

 ガチンコの『対話』を求める。


「お前は、本当に、ちょくちょく正論を口にするな。その考え方・視点だけは、少しだけ気に入ったぜ。まあ、だからって、解放したりしないけどな。お前の考え方を気に入るかどうかと、お前を許すかどうかは、まったく別次元の話だから」


 そう前を置いていから、


「お前の言う通り、『実質』的な善悪など存在しない。だが、人間は『人の世界』で生きなければならない。だったら、ボーダーは必要だろ」


 当たり前の摂理を口にして、


「あと、たとえ、それが『錯覚』にすぎなくとも、俺は『尊厳』的なものを大事にしたい。ようするに、これは、俺のワガママさ。そんなことは自覚している。結局のところ、俺は俺の我を通しているだけ。で? そこに何か問題があるか? 『問題をムリヤリつくること』は出来たとしても、それを俺に通すだけの力が、お前にあるか?」


「……」


「俺の行動に『問題がある』と提起したかったら、好きなだけすればいい。何を想い、何を口にするか、そこに関しては、誰だって常に自由だ。――ただ、ちゃんと言っておくが、俺は、他者の意見を気にしない。何を言われても俺は俺の意見を変えない。どんな時、どんな状況であれ、俺は俺を通し続ける」


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