62話 兄からの宣戦布告。

 62話 兄からの宣戦布告。


「……え、あの二人、何の話してんの?」


「ボーレ、お前は、本当に頭の悪いヤツだなぁ」


 と、前を置いてから、ゲンは、


「アレは、ほら、アレだよ……『宇宙は膨張している』みたいな、そんな感じの話をしているんだよ」


「……壮大だな」


 などと、どうでもいい会話をしていると、

 ロコのスマホが音をたてた。


 相手を確認すると、


(アギト……)


 兄からの電話だった。

 兄から電話がかかってくることなどめったにない


 事実、入学以降、一度もかかってきていない。


(……いったい……)


 少し警戒しつつも、

 ロコは、通話ボタンを押した。


 すると、


『よう、ロコ。今、大丈夫か?』


「忙しいので、あとで折り返します。では」


『待て、こら。切ろうとするな。大事な話がある』


「……なんでしょう?」


『この一年、いろいろと考えた。ほんとうに、たくさん。ありとあらゆる角度から物事を捉えて、事実を並べて、必死になって考えて……そして、ようやく結論が出た』


「……前置きはいいので、さっさと言ってください」




『できれば一年以内に、遅くとも3年以内に、お前を殺す』




「……穏やかではありませんね」


『昨今、巷で、色々と珍妙な事件が起きているのは知っているな?』


「聞き及んでおりますわ。要人が行方不明になったり、遺跡が荒らされたり……『裏社会の組織がいくつか壊滅した』というウワサも聞いております」


『その件に関して、いくつか、ルルが本家に協力を要請してきた』


「……ほう」


『もちろん、家族の頼みだからな。快く、協力させてもらう。今回で言えば、ゴキとの間を取り持たせてもらった。あの狂人集団とまともに取引が出来るのは、現状だと、私くらいだからな』


 ルルは、学園の統治権以外の権限を、ほとんど有していない。


 もちろん、外部組織に対しても、

 『ちょっとした頼みをする権利』ぐらいなら、

 まったくない、というワケではないが、

 本格的にゴキを動かそうと思えば、

 いったん、アギトに話を通す必要がある。


 ――まあ、話を通したからといって、

 ゴキがしっかりと働くかといえば、

 別に、そういうワケでもないのだが。


『ただ、いくら家族とはいえ、なんの条件もなく面倒事を引き受けるというのは、立場的に、なかなか難しい。家の位が高貴すぎるというのも考え物だな』


「迂遠な言い方は好きではありません。さっさと用件を」


『そう、露骨に焦るなよ。単純な話さ。――昨今の面倒事を処理した暁には、ルルには、私のお願いを、いくつか聞いてもらう』


「……」


『今回の協力要請に関しては、ルルも、いささか本気らしくてな。露骨に表に出しているわけではなかったが、あの叔母らしくない、ガチの不安感が漏れ出ていた。だから、もしかしたら、と思い、ダメ元で頼んでみたら……案外、すんなり通ったよ』


「何度も言わせないでください。用件は手短にお願いします。切りますよ」


『ことがすめば、そこはもう安全地帯じゃない』


「……」




『必ず殺す。ブチ殺す。覚悟しておけ、クソガキ』

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