55話 どこまでもサイテー。


 55話 どこまでもサイテー。



「今から、私がどこに行こうとしているか教えてあげましょうか? 先ほど、隙だらけのあなたたちの背中を見て、殺意と嗜虐心が燃え上がってしまったので、これから、テキトーな獲物を狩りにいこうと思っているのですよ」



 そんなチャバスチャンのイカれた発言を前にしても、

 しかし、ロコは、

 わずかも怯むことなく、


「ならば、その殺意を、ウチのアモンにぶつけるといい」


 そう言って、タイマン相手を指名した。


 指名を受けたアモンは、

 軽く笑いながら、


「……僕のような『いたいけな子供』を、血に飢えたサイコパス殺人鬼に差し出すとは……とんでもない人ですね、あなたは。いくら、為政者の血族だからといっても、やっていいことと悪いことがありますよ?」


 と、別に思ってもいない言葉を口にする。


「戦いたくないのであれば、拒否してもかまわない。その時は、ゲンを出す」


「……」


 アモンは、三秒だけ黙ってから、


「……まあ、いいですけどね。ゴキメンバーの実力には興味がありますし、それに……」


 そこで、アモンは、チャバスチャンを睨みつけ、


(ああいうクズを放っておくと、上からの評価が下がりそうだしね。……現状は潜入ミッション中だし、ゴキは、別部隊の担当だから、ここでスルーしたとしても、大きなマイナスにはならないだろうけどさ……ま、そういう打算的な理由を抜きにしても、ああいうクズは嫌いだしね)


 などと、心の中、そんな事をつぶやきつつ

 力強く、一歩前に出る。


 その様子を見て、

 チャバスチャンは、

 渋い顔で、


「私、弱いものを殺すのは好きなのですが、強いものと命を削り合うのは、趣味じゃないんですよねぇ」


 タメ息交じりに頭をかきながら、

 そんな、サイテーのことを口にする。


 アモンは、フラットな顔で、


「そうか。なるほど。だから、そんなに貧弱そうなんだね。納得。『初心者狩りが趣味のカス』は、いつまでたっても強くなれない」


「ははは。煽ってきますね。けれど、挑発には乗りませんよ。別に、私は、『強さ』に興味がないので」


「じゃあ、何に興味があるのかな?」


「ん? それ、ほんとに知りたいですか?」


「……いや、べつに。ちょっと聞いてみただけで、ムチャクチャ知りたいってわけじゃない」


 などと言いながら、軽く肩のストレッチをするアモン。

 パキパキっと関節の音がなる。

 肉が軽く軋んで、

 全身に血が巡っていく。


 その様子を横目に、

 チャバスチャンは、


「完全にやる気ですね……」


「うん。もう、スイッチ入っちゃったから、イヤでも戦ってもらう。逃げたかったら逃げてもいいよ。追いかけて、後頭部にケリを入れるから」


「ずいぶんと暴力的なお坊ちゃんですね」


 苦笑しつつ、


「やるのは構いませんが、私、殺されるのはイヤですからね。ちゃんと手を抜いてくださいよ。約束ですからね」


「ついさっき、『やるなら殺す』なんて息巻いていたのに、自分は殺されたくないって? それは通らないんじゃないかな?」


「通るか通らないかなんて、私は気にしていませんよ。私は、いつだって、言いたいことを口にさせていただくだけです」


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