27話 敗北はありえない。

 27話 敗北はありえない。


(本気を出さなくても、普通の『殴り合い』なら、僕が、この女に負けることは絶対にありえない……けれど、『丁寧に前提を整えられてしまった上での殺し合い』となると、本気を出したとしても、削り切られる可能性はゼロじゃない)


 『ロコの毒』の鬱陶しさを正しく理解すると、

 アモンは、シニカルに微笑んで、


「――毒をまき散らして、時間を稼いで、相手が死ぬのを待つ戦法……姑息だね」


 ちょっとした本音を口にする。



「褒めてくれて、ありがとう」



 サラっとそう言いながら、

 ロコは、


「毒刃乱舞ランク17」


 浮遊する無数の『毒刃』を召喚し、

 それを、アモンの周囲に配置する。


(確実に削ってくる……スキのない毒ビルド……けっこうな格上を相手にしても、それなりの傷跡を残せるスタイル……なんというか、『覚悟』がうかがえるビルド……)


 先ほど、『姑息』と評したが、

 もちろん、本気でそう思っているわけではない。

 本音ではあるが、事実ではないという、ちょっとした自己矛盾。


 当事者ではなく、観測者の視点で言えば、

 むしろ『かなり芸術的』だと思っている。


 ロコの毒は、非常に美しい強烈な武器。


(百済の闇人形と戦っている気分……)


 系統的には、間違いなく、そっち方面。

 つまりは、楽連の武士が最も苦手とする相手。


 ――とはいえ、


(まあ、『気分的にはそんな感じ』って、だけで……実際のところは、まだまだ基礎がお粗末だから、総合力で見れば、まったく百済レベルには達していないけどね)


 『毒の質』だけは非常に高いが、

 『全体的なステータス』で見れば、

 『百済の下部組織の中堅レベル』でしかない。


(……仮に、『向こうにとって有利な状況が整った実戦』で闘うことになったとしても、その時は、こちらも、それ相応の準備をしてから挑むだけ。君の強さは認めるけど、僕に……ゼノリカに勝てるというわけではない)


 さすがに、ガチンコで『負ける可能性』はない。


 めちゃくちゃ不利な状況が整ったら負ける可能性もなくはない、

 というだけで、

 ロコ相手に、アモンが、

 『実質的に敗北する』ということはあり得ない。


 ロコが『100』の準備をする間に、

 ゼノリカは『100兆』の準備を整えることができる。


 『ゼノリカが、数千年をかけて積み上げてきた層の厚さ』は、

 『全宮ロコという一人の少女』ごときに後れを取るほど安くはない。


 ――『その理解』に到ると、

 アモンは、IR3に通信をつなげて、

 ロコと闘いながらも、


(……IR3。全宮ロコの実力はだいたい把握したよ。噂以上の、なかなか危険な人材だ。まだ幼くて未完成だから、現時点だと、その気になりさえすれば、倒すのは、さほど難しくないけれど、このまま成長したら、『九華の戦闘職が必要になるレベル』の厄介な存在になりそうだ)


(九華の戦闘職が必要になるレベル? そこまでの人材なの? 事前調査の段階だと、『ちょっとマシな毒』が使えるだけのお嬢様って印象だったけれど……)


 事前調査は、『全宮家』に関して、

 サラっとなぞっただけなので、

 細かいことは理解できていない。


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