21話 強者の噂。

 21話 強者の噂。



「……なんで……」


 ルルとゲンの顔を見つけたことで、

 ある程度、どういう状況かを察したロコは、

 ゲンに視線を固定し、


「なんで、あたしが試験に参加しないといけないの?」


 と、的確な質問を投げかける。

 今日が試験の日であり、

 ゲンが試験官を務めることは知っている。

 だからこその質問。


 ゲンに対しての質問だったが、

 ルルが、当たり前のように答える。


「急遽(きゅうきょ)、2対2の試験をすることになったから、その数合わせよ」


 ルルの言葉で、

 状況を飲み込んだロコは、


「……はぁ」


 と、深いため息をはさんでから、


「ルル叔母様、いくらなんでも、このような小間使いのような扱いは納得しかねます。あたしにも立場というものがありますし――」


 と、文句を言おうとしたところで、

 ルルが、


「それ以上、御託を並べるのであれば、ゲン・フォースを退学処分にする」


 と、冷たく言い放った。


 その発言に対し、ロコは、キっと視線に力を込めて、


「……ルル叔母様らしくありませんね。ご自身のルールに反してまで、あたしに圧力をかけてくるなんて」


「圧力? むしろ、逆よ。私は温情を与えているだけ」


「……温情?」


「ゲン・フォースは、そこにいる受験生に負けた」


「負けた? ゲンが? 受験生に? そんなバカな――」


「本来ならば、事前の約束どおり、問答無用で退学にするところを、私は、温情でチャンスをあげている」


「……」


 そこで、ロコは、受験生二人に視線を送る。


(……確かに、ただ者ではない雰囲気を感じる……ゲンに勝ったというのが事実なら、その実力は、クリムゾンスターズに匹敵する……それほどの者が在野にいれば、確実に噂にはなっているはず……けれど、そんな話は聞いたことがない……)


 ――先ほどの試験で、

 ゲンから『ぎりぎり不合格』と言われた二人

 『53番』と『最後に残ったスキンヘッド』、


 あの二人は、ゲンに数十秒で倒されたが、

 実のところ、それなりに名前が通っている有名人。


 ルルもロコも、あの二人については、一応、知っていた。


 もちろん思想や戦闘スタイルなどの細かな詳細は知らないが、

 『~~の~~が、今年、試験を受けるかも』

 『~~の~~は、ものすごい天才だから、きっと受かる』

 というウワサくらいは、ちょこちょこ耳にする。


 ルルは、

 『53番の師匠(全宮家の中枢で働いている強者)』から、

 正式に、

 『今年、ウチのが受けますので、ひとつ、よろしくおねがいいたします』

 みたいな挨拶も受けている。


『試験で便宜を図ったりはしないわよ?』

『試験の方は心配しておりません。あいつなら実力で確実に受かるでしょう。私がよろしくお願いしたいのは、入学して以降の話です。手塩にかけて育てた弟子ですので、どうか、可愛がっていただければと思いまして』


 『試験には受かるだろう』という自信は、

 決して過信ではなかった。

 『今年の試験のボーダー』が厳しかったから、

 ギリギリ落ちてしまったが、

 『ボーダーが正常』の年に受ければ、

 53番は、余裕で合格できるレベルに達している。


 ※ 全宮学園Sクラスの試験は、毎年、難易度が変わる。

   けっこう簡単な試験の年もあれば、

   今年や去年のように、メチャクチャ厳しい時もある。


   ちなみに、試験内容が簡単な場合、

   合格できる人数が絞られている、

   というケースが多い。

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