16話 おつかれぇ!

 16話 おつかれぇ!


(……お前は誰だ……)


 その問いかけに、

 アモンの心臓は、ドクンと強く脈打って答える。


(そうだ……僕は……)


 栄えあるゼノリカの天下、

 楽連の武士、督脈の十五番。




「ふぅぅぅぅぅ……」




 自分自身に対する怒りが、

 アモンを深く集中させた。


 ここまでは、『ガキが相手だから』と、

 普通にナメていた。

 というか、どうしても、ナメずにはいられなかった。


 だが、


(ここからは、本気で対処する……魔法もグリムーツも使わず、体技だけで完封する)


 頭のスイッチを切り替える。

 『縛りを厳格化』し、

 『彼我の差を薄くする』ことで、

 こびりついていた『余裕』を削ぎ落す。


 覚悟を決めると、

 構えが変わる。


 圧力が増して、

 オーラが静かになる。


 『アモンの変化』を肌で感じたゲンは、


(ビリビリくる……目つきが変わった……)


 距離を取りながら、

 視線をアモンに集中させ、


(ものすごい迫力……10歳で、よくも、まあ、そんな覇気が出せるもんだな……)


 心底感心しつつ、

 ゲンは、




(こいつの全部が見たいな……)




 どうやら、『アモンの底』が見たくなったらしく、

 だから、イタズラな笑顔を浮かべて、


「なかなかやるじゃないか、クソガキ。正直、驚いた」


 と、前を置いてから、


「しかし、Sクラスに入れるほどじゃないな。由緒正しきSクラスの壁は高い。俺に勝てない程度の雑魚は必要ない。というわけで、お前は不合格だ」


 そんなふざけた言葉を受けて、


「……ぁあ……?」


 集中し切っているアモンの目が血走る。

 圧力がさらに増す。


 アモンの熱量が上がっていくのを感じ取ったゲンは、

 トドメとばかりに、続けて、


「というわけで、おつかれぇ! かえっていいぞ」


 と、無粋に感情を逆なでしていく。



「……ふざけるな。まだウォーミングアップが終わったところ。勝負はここからだろう」



 そんなことはわかっている。

 わかっているからこそ、

 ゲンは、ムカつく顔を浮かべて、


「お前の意見は聞いていない。試験官である俺が、『お前は合格ラインに達していない』と思った。それがすべてだ。他の誰がなんと言おうと、俺が試験官である以上、俺の意見は絶対なのだ」


「……」


 呆れてモノも言えなくなっているアモンに対し、

 ゲンは、


「さあ、不合格者は、この場で退場だ。さっさと帰りなさい」


 シッシッと手を振ってみせる。

 徹底して見下した態度。


 そんなゲンに、アモンは、ガンギレの顔で、


「ふざけるな、と言っている。君よりも、明らかに僕の方が強い。このまま戦っていれば、間違いなく僕が勝っていた。こんな不当な判定は断じて認めない」


 怒気を抑えることなく、


「僕は、遊びでここに来たわけじゃない」


 そう言い切ると、

 ゲンは、鼻で笑って、


「遊びで受験するヤツの方が珍しい。みんな、人生を変えるために、ここにくるんだ。あと『納得のできる終わり方』を享受できる者なんてそうそういない。贅沢言うな」


「……」


 呆れと怒りの混じった顔で、

 ゲンの顔をにらみつけているアモン。


 アモンの感情が、極限まであったまったことを確認したゲンは、



「まあ、でも、そこまで言うなら、あと10分だけ相手をしてやってもいい。しかし、その10分で俺を倒せなかったら、お前は不合格。温情を与えるのはここまで。これが最後のチャンスだ」

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